著作権関係の主要な裁判例をおさめた法律専門誌「著作権判例百選」の改訂版が著作権を侵害しているとして、東京地裁は10月下旬、出版の差し止めを命じる仮処分決定を出した。著作権に関する代表的な書物が「著作権侵害」で出版できなくなるという異例の事態となった。
問題となったのは、有斐閣が発行を予定していた「著作権判例百選(第5版)」。旧版の編者の一人だった大渕哲也・東京大学教授が「無断で改訂版の編者から外されたのは、著作権の侵害に当たる」と出版の差し止めを求めていた。
これにより、11月上旬に予定されていた同書の出版は当面、見送られることになった。報道によれば、大渕教授は、第5版の内容は第4版と9割近く一致しており、自身にも編集著作権があると主張していたという。
今回は何が「著作権侵害」にあたるとみなされたのだろうか。「著作権判例百選」の執筆者の一人で、著作権にくわしい桑野雄一郎弁護士に聞いた。
●「編集著作権」とは何か?
「大渕先生が主張したのは、編集著作物に対する著作権(編集著作権)です。
編集著作権とは、素材の選択や配列に創作性がある場合に認められる著作権です。素材が著作物でなくても、編集著作権が認められることがあります。また、素材が著作物である場合、それに対する著作権とは別に認められます。
著作権判例百選に関していうと、掲載されている個々の判例解説については、各執筆担当者が著作権を持っています。それとは別に、どの判例を、どのように分類し、どのような順序で掲載するかという素材(判例)の選択や配列にも創作性がありますから、それを決めた方に編集著作権が成立するわけです」
●「第4版」で編集内容が一新された
今回、大渕教授に「編集著作権」が認められたのは、なぜだろうか?
「大渕先生が編者となった第4版は、編者が一新され、それに伴い、収録判例や全体の章立て、掲載順序などが旧版とは大きく変わりました。
大渕先生が、他の編者とともにこの一新された編集内容を決めたのであれば、第4版の編集著作権者の一人ということになります。そして、第5版が第4版を基本的に踏襲し、編集内容に本質的な変更がなかったとすると、大渕先生の編集著作権は第5版にも及ぶことになります。
今回の仮処分決定は、そのように判断したと考えられます。
ただ、著作権法のスタンダードな教材ですので、学習者のためにも早く解決して出版されることが望まれます」
桑野弁護士はこのように話していた。