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2015年05月24日 10時21分

警察が「著作権問題」に異例の介入!?「ハイスコアガール事件」をどうみるか?

警察が「著作権問題」に異例の介入!?「ハイスコアガール事件」をどうみるか?
桑野雄一郎弁護士

漫画やアニメの分野で「著作権侵害」が問題になるケースは少なくない。ただ、裁判に発展するものの大半は、民事訴訟で著作権者から訴えられるケースだろう。そんななか、例外的に警察が動き出して、刑事事件化するケースもある。最近の代表例が「ハイスコアガール事件」だ。

昨年8月、漫画「ハイスコアガール」のなかで他社のキャラクターを無断で使ったとして、大阪府警が発行元のスクウェア・エニックスを家宅捜索し、11月に同社の担当者や漫画の作者ら計16人を書類送検した。

書類送検の容疑は、2012年2月から2013年12月に「月刊ビッグガンガン」で連載されていた「ハイスコアガール」の作品中で、ゲーム会社「SNKプレイモア」が著作権を持つ格闘ゲーム「ザ・キング・オブ・ファイターズ」などのキャラクターを、無許可で使用したことだとされている。

使用したのは計166カ所ということだが、SNKプレイモアが昨年8月、著作権を侵害されたとして、雑誌を発行するスクウェア・エニックスを刑事告訴したのだ。現在の事件の動向について、スクウェア・エニックス広報にたずねたところ、「書類送検以降、新たな動きがあったとは聞いていない」という回答だった。

政府のTPP(環太平洋経済連携協定)交渉で、刑事告訴がなくても起訴できる「非親告罪化」がテーマの一つになっていると報じられるなか、警察や検察が著作権問題に介入することに対して、どう向き合えばいいのか。著作権法にくわしい桑野雄一郎弁護士に聞いた。(取材・構成/重野真)

●いきなりの強制捜査、かなり異例な流れ

ーーハイスコアガール事件はどこが問題だったのか?

「実は、その辺は分からないところが多いですね。これまでのケースでは、双方が弁護士を立てて交渉をしているとき、警察はしばらく静観していることが多かったんです。いきなり強制捜査というのは、かなり異例の流れをたどっています。しかも、完全な海賊版のような、著作権侵害が明らかな悪質な事案とは違います。そういう意味でも、かなり驚きでした。

ただ、今までの解釈を前提にすると、著作権侵害に当たらない『引用』とはなかなか言いにくい事例だと言わざるを得ません。しかし、刑事罰に処せられるべきほど違法なものかどうかということは、評価が分かれる事案です」

ーー過去にも似たような事件はあったのか?

強制捜査がなされて起訴されたものの、結局無罪になった事件としては、ファイル交換ソフト「Winny」の開発者に対する事件や、ファービー人形を模倣した人形を販売していた業者に対する事件などが、有名です。しかし、いずれも、本件のように双方が弁護士を立てて交渉していた最中に、いきなり強制捜査が行われたという事件ではありません。やはり、今回の事件は異例と言ってよいと思います。

ーー同人誌などに影響が及ぶ可能性はあるのか?

「個人的な同人誌のようなものに関しては、あまり影響はないのかなと思いますね。これまでも同人誌について、権利者は正式に許可を出さないけれども、その多くは黙認されている状況でした。

現在の法律で、著作権侵害は『親告罪』ですので、著作権者が黙認していて刑事告訴しそうもないのであれば、警察はまず動きません。実際には、クレームを受けた段階で引っ込めるなどの対応をすれば、強制捜査にまで発展することはないのではないかと考えます。したがって、コミケなどへの影響はそれほど大きくないと思います」

●「グレーだから行こう」と判断してきた流れがどう変わるか

ーー出版社などの企業の場合はどうなるのか?

「企業の場合は個人以上にリスクを考えないといけないので、萎縮してしまう可能性があります。本来は使用しても問題にならないようなケースでも、刑事事件に発展する可能性を考えて、萎縮してしまうことがあるでしょう。これは『表現の自由』との関係で、きちんと考えないといけない問題です。

我々弁護士の仕事は、グレーなものに関しては、『危ない』というアドバイスを堅め堅めにやることです。これまで日本の民事の損害賠償に関しては、べらぼうな金額が認められるわけではありませんでした。さらに、いきなり逮捕のような強制捜査が行われたり、刑事罰が科せられたりすることも、まずなかろうという判断でした。

そういう意味で、何らかのクレームを受けた段階で、それなりに誠実な対応をしておけば、大きな問題に発展したり、危ない事態になったりすることもないだろうという前提のもとで、『グレーだったらいってみよう』という判断をするクライアントは、少なくありませんでした。

我々弁護士の判断やアドバイスとしては変わるところがないのですが、クライアントがどういう行動を取るかというところに、影響がでてくると思います」

●非親告罪化すれば、刑事事件が多くなる可能性も

ーー萎縮すると、表現の幅が狭まってしまうのではないか?

「そうなんです。たとえば、パロディ的なことをするにしても、著作者になるべく配慮して怒らせないような表現の仕方を選ぶとか、そういう工夫はこれまでもそれぞれしていたところだと思います。そこに、『でもクロでしょ』という判断でドカンと強制捜査、そして刑事罰がくる可能性が出てくることは、非常に怖いところですよね」

ーー表現の自由に配慮して、著作権法を改正する動きになるのか?

「その可能性はないでしょう。今の条文の法解釈をどうするかという観点での議論が中心になってくると思います」

ーーTPP交渉で話題になっている「非親告罪化」とどう関連してくるのか?

「非親告罪化すると、権利者の刑事告訴がなくても、検察が起訴することができるようになります。TPP交渉を見ていると、非親告罪化が止められるのか、かなり危ない雰囲気があります。

非親告罪化となれば、かなり刑事での適用場面が多くなってくるという感覚があり、どう対応すべきかを考えているところです」

(弁護士ドットコムニュース)

桑野 雄一郎(くわの・ゆういちろう)弁護士
骨董通り法律事務所。島根大学法科大学院教授。「外国著作権法令集(46)-ロシア編―」(翻訳)、「出版・マンガビジネスの著作権」(以上CRIC)、「著作権侵害の罪の客観的構成要件」(島大法学第54巻第1・2号)等。
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