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熊本地震で家具固定グッズ大売れ…立ちはだかる「壁の穴あけ禁止」ルール
熊本地震で倒れた家具(提供写真)

熊本地震で家具固定グッズ大売れ…立ちはだかる「壁の穴あけ禁止」ルール

4月14日から続く熊本地震を受け、家具の転倒防止グッズに注目が集まっている。報道などによると、九州圏内に限らず品薄になる店が出始めているようだ。

家具の固定については、費用を助成する自治体もあり、特に、壁にネジやクギを打って固定する器具が有効とされている。

しかし、賃貸住宅は壁の穴あけを禁止するところがほとんどだ。ツイッター上には熊本地震を受けて、「賃貸住宅の家具固定について、ひどく悩む」「固定したいのに賃貸でなにもできなくて不安」といった書き込みも見られる。

原状回復が困難という貸主側の事情もあるだろうが、家具の転倒防止のためでも、賃貸住宅の壁に穴をあけてはいけないのだろうか。久保豊弁護士に聞いた。

●防災目的でも穴あけはダメ?

「地震による負傷者の3〜5割は家具の転倒・落下が原因であるとも言われ、家具等の転倒防止策に関心が向けられています。しかし、賃貸住宅における転倒防止策には、問題が指摘されています」

いったい、どんな問題があるのか。

「借り手は、『善管注意義務』や『用法遵守義務』を負っているため、賃貸人の許可なく、建物を損傷すると『賃貸借契約違反』になってしまうのです。そのため、床や壁に穴を開けるなどして転倒防止器具を設置することは、原則できません。

国土交通省が公表している『賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を見てみましょう。壁等の画びょう、ピン等の穴や、エアコン設置による壁のビス穴については、『一般的に生活する上で必要な行為』により生じた損傷(通常損耗)であるとして、原状回復義務を負わないこととなっています。つまり、これらの穴であれば空けてもよいということです」

それならば、家具の転倒防止策も、「一般的に生活する上で必要な行為」に含まれるのではないか。

「このガイドラインでは、床や壁の損傷を伴う家具等の転倒防止策は、『善管注意義務違反』による損傷に分類されています。『予め、賃貸人の承諾、または、くぎやネジを使用しない方法等の検討が考えられる』とあるので、賃貸人の許可なく行うことは禁じられていると考えてよいでしょう」

これだけ首都圏直下型や東南海地震への備えが叫ばれているなか、クギやネジを使って効果のある転倒防止策をとることは当たり前ではないだろうか。

「そうですね。賃貸住宅では、まずは賃貸人に対して、家具等の転倒防止策のために床や壁に穴を開けることを許可してもらうよう働きかけるべきでしょう。その際に、設置する器具や原状回復の方法について話し合っておけば、退去時のトラブルを避けられるはずです」

もし、許してもらえなかったら、どうしたらいいだろう。

「許可が取れない場合、ほかの対策を取るほかありません。たとえば、穴を開けない転倒防止器具をなるべく効果的に設置するといった方法が考えらます。このほか、転倒するような家具を置かない、転倒してもケガをしないような位置に置くといった工夫もできるでしょう。

ただ、現在各方面で、賃貸住宅における家具等転倒防止策の重要性が叫ばれています。今後は、エアコン設置による壁のビス穴等と同様に、『一般的に生活する上で必要な行為』により生じた損傷(通常損耗)と認識される可能性も十分に考えられます。

また、借り手とのトラブルを防ぐためにも、冷蔵庫など設置場所がおおむね決まっているものについては、あらかじめ物件に転倒防止器具を設置する流れも、徐々に進んでくるのではないでしょうか」

久保弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

久保 豊
久保 豊(くぼ ゆたか)弁護士 鎌倉総合法律事務所
大学卒業後、旅行会社、一部上場IT企業を経て弁護士に。弁護士に転身後、不動産、建築・建設、法人破産、相続などを中心に多数の案件に精力的に取り組む。2008年弁護士登録

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