別れた恋人からの連絡は、ただでさえドギマギするのに、その内容が「あなたに性病をうつされたんだけど」という怒りのものだったら?
ある男性は、半年ほど交際していた元カノから「性病を感染させられ、不妊になってしまった」と、電話で怒りをぶつけられたそうです。男性は「治療費80万円、慰謝料として400万円を請求されているのだけど、払わないとダメですか」と、弁護士ドットコムに相談を寄せました。
元カノは、「あなたと付き合ってる間は、他の人との性行為はなかったし、その以前も1年以上、誰ともしていない」という理由で、感染源を相談者と断定しているそうです。
慌てた相談者が検査したところ、結果は陰性。そこで「100%とは言えませんが、(元カノは)他者から感染したのでは」と考えています。
今回のケースでは因果関係が証明できなくても、請求に応じなければいけないのでしょうか。上将倫弁護士に聞きました。
●「故意または過失」によって、被害者に損害を与えたかどうか
ーーまず性病を感染させられた、という理由で慰謝料を請求できるのでしょうか
「性病を感染させた者に慰謝料の請求をするためには、交際相手の行為が民法上の不法行為に該当する必要があります。
そのためには、故意または過失によって、被害者に損害を与えていなければなりません」
ーー具体的に「故意または過失によって、被害者に損害を与えたこと」とは、どのような場合でしょうか
「自分が性病にかかっていることを知りながら、それを相手に告げずに、避妊具を装着することなく性行為を行ったような場合には故意または過失が認められると解されます。
自分が性病にかかったことをはっきりとは知らなかった場合であっても、自覚症状があるのに長時間放置していたような場合には、過失が認められる可能性があります。ただ、その証明は簡単ではないでしょう。
次に、交際相手の行為によって被害者が性病にかかったこと、つまり因果関係が必要です。他の感染経路からうつった場合には、交際相手は責任を負いません」
●「クラミジアを感染させた案件で30万円の慰謝料」
ーー今回のケースではどうなりますか
「ご相談のケースの場合には、因果関係以前の問題として、相談者に故意または過失があったのか検討する必要があります。
性病について自覚症状もない場合には、特段の事情がないかぎり、責任が生じる可能性は低いと思われます。
また、ご指摘のように、相談者からの感染であったことが証明できない場合には、相談者が責任を負うべきであるとはいえません。
逆に故意または過失によって、相手方に性病を感染させてしまった場合には、損害賠償責任を負わなければなりませんが、その立証は難しいでしょう」
ーーところで、性病をうつしたという理由で慰謝料が認められた事例はあるのですか
「クラミジアを感染させた案件で30万円の慰謝料が認められた裁判例があります。
事案によりますので一概にはいえませんが、一般論としては、今回の相談者に500万円もの賠償が認められる可能性は低いでしょう。
もっとも、故意に性病をうつし、それが原因で不妊になって回復の見込みがないような場合には、賠償額が高くなることは考えられます」