近所の駐車場にとめてあった他人の車に、カギで傷をつけたとして、元民放アナウンサーで、現在住職の70代男性が2月中旬、器物損壊の疑いで兵庫県警に逮捕されました。
報道によりますと、男性は2月11日午後1時ごろ、近所の駐車場にとめてあった乗用車のボンネットに、カギを使って、長さ約30センチの傷をつけた疑いが持たれています。
男性は30年以上、民放のアナウンサーの仕事をつとめたあと、妻の実家の寺で住職となっていました。3年ほど前から認知症となり、症状がすすんでいたという報道もあります。
この男性は、接見した弁護士に「自分が何をやったかよくわからない」と話したということですが、一般論として、認知症の方による犯罪はどうあつかわれるのでしょうか。宮地紘子弁護士に聞きました。
●「超高齢社会をむかえる中で、他人事ではない事件です」
――一般論として、認知症の方が犯罪をおこなった場合、どうあつかわれるのでしょうか?刑事責任能力がない、ということになるのでしょうか?
認知症の方の違法行為だからと言って、ただちに刑事責任能力がない、ということにはなりません。
違法な行為をしたことについて、その人が刑事責任を負担することができる能力を「刑事責任能力」と言います。
原則として、物ごとの善悪を判断する能力や、それにしたがって行動する能力が失われた状態(心神喪失状態)、それを欠いた状態(心神耗弱状態)は、無罪になったり、減刑されたりします。
ただ、これらにあたるか否かについては、判例上、医学的判断ではなく、法律判断とされています。そのため、鑑定医が作成した鑑定書や、認知症の患者の普段の生活状況や犯行当時の病状、犯行動機などを総合して、最終的には裁判所が判断することになります。
――超高齢社会の到来で、認知症の方によるトラブル・事件が増えていくのではないかと予想されています。何かできることはないのでしょうか?
先に刑事責任について述べましたが、民事上の賠償責任を問われることもあるため、注意が必要です。特に、配偶者や子どもなどの家族に監督責任が生じるケースもあります。
認知症の方の事件を完全に防ぐことは、ご家族の負担などを考えると、現実的には難しいと思います。ただ、たとえば、ご家族に認知症の疑いが少し出てきた場合には、早めに適切な医療機関を受診したり、診断を得ておいたほうが安心だと思います。
また、万が一に備えて、認知症の方が第三者に対して損害を与えた際の損害をカバーできるような保険への加入を検討するという方法もあります。
今後、超高齢社会をむかえる中で、他人事ではない事件だと思いますので、ご家族の負担等が軽減されるような公的なサポートも充実していくと良いと思います。