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2018年05月21日 10時05分

刑事弁護人のリアル「真実の発見が目的じゃない」「痴漢にこそ裁判員裁判を」

刑事弁護人のリアル「真実の発見が目的じゃない」「痴漢にこそ裁判員裁判を」
趙誠峰弁護士

TBSドラマ「99.9-刑事専門弁護士」は、有罪率99.9%の刑事弁護の世界をテーマとして注目を集めた。ドラマでえがかれた刑事弁護という仕事にはやりがいが詰まっていた。

しかし、実際の刑事弁護についてはあまり知られていない。「お金にならない」「犯罪者をかばう」などのマイナスイメージを抱く人もいるだろう。

そのようななかで、「刑事弁護は非常にやりがいのある仕事だ」と語る弁護士がいる。早稲田リーガルコモンズ法律事務所の趙誠峰弁護士だ。

刑事弁護の意義や役割、市民と刑事裁判の接点である裁判員制度について話を聞いた。(岩上開人)

●真実よりも依頼者の権利保護が大事

なぜ刑事弁護を選んだのか。

「2004年、ロースクール入学時には刑事弁護に全く興味がありませんでしたが、高野隆弁護士の講義を受講し、刑事弁護に惹かれました」

高野弁護士は、数々の無罪判決を獲得し、刑事弁護に関する著書を多く出版している日本を代表する刑事弁護士。黙秘権などの権利保障を推進した「ミランダの会」の代表も務めていた。

「先生と一緒に生の事件を扱う実践的な授業を通して、刑事弁護の仕事を理解し、やりがいを感じるようになりました。その流れで、高野隆法律事務所で弁護士生活をスタートさせ、刑事弁護を一から学ぶこととなりました」

高野弁護士の影響を強く受けて、自身も必要ならば黙秘権を行使することを厭わないという。しかし、被疑者が黙秘権を行使してしまうと、実際に何があったのかを明らかにできないのではないか。

「そもそも、刑事弁護人は『真実の発見』を目的にすべきではありません。もちろん、刑事裁判を通じて真実に近くことはありますが、あくまで結果論です。

仮に被疑者が犯人だったとしても、国家から命や自由、財産を奪われそうな危機的状況にいることに変わりません。そのような状況で誰も寄り添ってくれない社会は恐ろしいと思います。少なくとも、刑事弁護人は法律を駆使して、依頼者を守ることに尽くすべきです」

さらに、趙弁護士はそもそも裁判官ですら、真実の発見はできないと語る。第三者が事後的に何があったかを知ることは不可能だからだ。

「裁判官は、証拠に基づいて、検察官が主張する事実があったことが間違いないといえるかを判断することに従事すべきです。証拠から事実があったといえなければ、結果的に真実とは異なる判断であったとしても、その判断を受け入れなければいけません。冤罪を避けるためです」

そのような考え方は法律家だからこそできるもの。一般の人には受け入れがたいのではないか。

「そんなことはないです。たしかに、事件記事に対するインターネットの過激なコメントをみれば、このような考え方は受け入れられないようにも思います。

しかし、証拠から客観的に事実を判断する能力は、市民にも備わっています。

その根拠の一つが、裁判員として法壇に立つ市民の存在です。裁判員は人を裁く責任の重さもあり、証拠にもとづき冷静な判断をしています。決して感情的にはなりません。

証拠に基づく事実認定は私たち市民が日常でもおこなっていることであり、法律の知識を必要とするものでもないので当然でしょう」

●刑事裁判に市民の感覚が反映

趙弁護士が担当する刑事事件の多くが、裁判員裁判の対象だという。現場の弁護士として、どう感じているのだろうか。

「裁判員制度によって、全体的に無罪率が上がったわけではありません。しかし、裁判員制度のおかげで、事件類型によっては無罪件数が確実に増えました。

その典型例が『覚せい剤密輸事件』です。例えば、空港で知らないうちに覚せい剤を運ばされていたという事件がよくあります。これまでは、裁判官の常識に基づき、『知らないものが自分の荷物に入っていることは考えられない。嘘をついてるに決まっている』と結論づけられていました。

ところが、裁判員制度が導入され、市民感覚が反映されたことによって、『自分の荷物に覚せい剤が入れられることも考えられなくはない』と判断されるようになりました」

●罪の軽い事件にも裁判員制度が適用されるべき

もっとも、裁判員制度にも課題はあるという。

「裁判員制度は、殺人罪や放火罪などの重大事件にしか適用されません。しかし、市民の感覚をより生かすには、重大事件よりも、痴漢などの罪の軽い犯罪、身近な犯罪にこそ裁判員制度を適用すべきです。

裁判員裁判では、裁判官と裁判員が一体となって事実認定と量刑判断をします。証拠から事実を導く事実認定は市民の常識を反映させるのに適していますが、ある犯罪についてどのくらいの刑がふさわしいかという量刑の判断に市民の常識を反映させることは難しいと思います。市民はそのような常識を持ち合わせていません。そこで、事件間の公平性を失わないよう、最近では、裁判員は裁判官から示された過去の同様の事件の量刑傾向を参考にしています。

それなら、わざわざ時間を割かせてまで裁判員に量刑判断をさせる必要はないでしょう。むしろ、量刑判断をさせる代わりに、罪の軽い犯罪でも市民に事実認定をさせるべきです」

罪の軽い事件に裁判員制度が適用されるためにはどうすればよいか。

「現行法では、裁判員裁判は裁判官3名と裁判員6名(3・6制)もしくは裁判官1名と裁判員4名(1・4制)の合議体によって行われることになっています。しかし、1・4制で裁判員裁判が実施されたことは、今までに一度もありません。はっきりした理由はわかりませんが、裁判官1人で市民4人を相手にするのは怖いのかもしれません。

1・4制による裁判員裁判を増やせば、1事件に裁判官1名で対処できるため、今の裁判官の人数を前提にしても、今よりも多くの事件で裁判員制度を適用しやすくなると思います」

●誰が弁護するかによって結果が変わるのは当然

裁判員制度も含め、法律関係のドラマだけでは、なかなか刑事弁護の実態は見えてこない。刑事弁護人のやりがいはどのようなものなのか。

「誰が弁護するかによって当然結果は変わります。そのことをよくないという人がいますが、それは間違いです。裁判は人間がおこなうものだからです。裁判官も、一度も無罪判決を出したことがない人もいれば、30回以上も無罪判決を出した人まで様々です。

弁護士の力量で結果が変わることは非常に面白いし、やりがいにもつながります。自分が頑張ることによって、依頼者が救われるかもしれないから、日々技術を磨いたり、知識を身につけようと思えます」

最後に、必死になって守ろうとしている依頼者は、どのような存在なのか。

「殺人や強姦を犯した人と接する機会は多いですが、その人のことを全く理解できないと思ったことは一度もありません。

理解できるところがあるからこそ、依頼者を弁護できるのかもしれません。上から目線で依頼者に接するのではなく、対等な関係を築くようにしています。

私たちにどこか優れているところがあるとすれば、それは彼らよりも法律の知識が豊富であることだけなのです。決して弁護士が人間的に優れているわけではありません」

(弁護士ドットコムニュース)

趙 誠峰(ちょう・せいほう)弁護士
刑事事件、医療過誤事件、在日コリアンをはじめとする外国人事件(家事事件、入管事件等)、交通事故等の人身傷害損害賠償事件、家事事件などを得意とする。弁護士になって以来、困難な刑事弁護で培ってきた、どんな困難な事件でも最後まで粘り強く寄り添う力は他の分野の事件にも通じるものがあると自負している。
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