検察官が事件の容疑者を裁判にかけないと決める「不起訴」。大きく扱われる逮捕に比べると、不起訴には地味なイメージがあるかもしれない。しかし例えば、無実の人にとっては、不起訴は自分の名誉を回復するための重大な局面でもある。
ところが最近は、なぜ容疑者を不起訴にしたのかという理由を、検察が発表しなくなってきているという。東京新聞によると、2013年6月までの過去1年間、報道機関が東京地検に発表を求めた27事件のうち、実際に理由が発表されたのは13事件にすぎなかった。識者からは「きちんと説明するべきだ」と検察の姿勢を疑問視する声が出ているようだ。
では、そもそも容疑者が「不起訴」になるのはどんなケースで、それぞれどんな理由があるのだろうか。また、検察官が理由を公表しなくなってきたとされる点について、弁護士はどうみているのだろうか。元検事で、刑事事件にくわしい工藤啓介弁護士に聞いた。
●「不起訴」の場合は、できる限り理由を明らかにすべき
「不起訴処分とは、検察官が捜査をした結果、被疑者を起訴しないという処分です。不起訴処分にはさまざまな理由がありますが、区別が付きにくいのは『起訴猶予』と『嫌疑不十分』でしょう」
――「起訴猶予」と「嫌疑不十分」はどう違う?
「検察官には起訴するかどうかについて、広範な裁量が認められています。そして犯罪が成立する場合でも、さまざまな事情を考慮して起訴をしないことができます。これが起訴猶予です。
また、犯罪の嫌疑はあるけれども、有罪の見込みが低い場合は、検察実務としては起訴しません。これが嫌疑不十分です。このほか、頻度がグッと下がりますが、『真犯人』が見つかった場合などには『嫌疑なし』というケースもあります。
理論上はこのように分けられますが、判断するのは検察官ですので、ある程度『裁量』が働きます」
――その「裁量」とはどんなこと?
「実は、検察官は『起訴猶予』にしたがります。その方が自分たちの仕事上のメリットがあるからです。
まず一般に、起訴猶予の方が『警察や検察のメンツを保つことができる』と考えられます。また、嫌疑不十分とするための『不起訴裁定書』には犯罪が成立し難い理由を詳細に理由付けしなければなりませんが、起訴猶予処分であれば『犯情軽微』あるいは『従属的犯行』などと簡単に理由付けすることができます。
そこで、上司(決裁官)がこだわらない人なら、判断が分かれる場合、『嫌疑不十分』とせず、『起訴猶予処分』で済ますこともあるのです」
――検察官はなぜ不起訴の理由を言わない?
「推測ですが、まずは不起訴となった事件の『被害者への配慮』が考えられます。被害者は相当なストレスを受けていることも少なくありませんから、一定の配慮が必要ということです。
また、不起訴の理由を説明することが、ほかの同じような事件に影響を与えることも、おそれているのではないかと思われます。
しかし、『不起訴処分』を受けた被疑者には、処分内容に対する不服申立が認められておらず、検察官から説明してもらうことが、唯一の名誉回復手段になります。その点を考えると、不起訴の理由はできる限り明らかにすることが妥当であると考えます」
裁判員裁判など、司法への市民参加が進んでいるいま、検察の説明責任はより重大になってきていると感じる。もし不起訴の理由について言えない事情があるとしても、せめて「理由を言えない理由」ぐらいは明らかにすべきではないだろうか。