大阪府豊中市で登校中の小学生の列に車で突っ込み、6人に重軽傷を負わせたとして、自動車運転死傷行為処罰法の危険運転致傷罪などに問われた女性の裁判で、大阪地裁(田村政喜裁判長)は3月13日、無罪判決を言い渡した(求刑懲役4年6月)。
報道によると、女性は2015年5月、運転前に睡眠導入剤を服用し、正常な運転ができない可能性があると知りながら車を運転して、居眠り状態で小学生の列に突っ込んだとして起訴された。
判決では、女性が事故時に居眠り状態だったことを認める一方、交通量が相当ある道路で、右左折をしていた点に着目し、「特段注意力が減退していたわけではない」とした。薬物の影響で正常な運転に支障があるおそれがあったとは認めなかった。
検察側は、危険運転致傷罪が成立しなかったときのために、「眠気があったのに運転を中止する義務を怠った」として、予備的に女性を過失運転致傷罪でも起訴していたが、「眠気があったことは立証されていない」「運転中止の義務が生じていたか疑問が残る」として無罪とした。
事故を起こし、小学生にケガを負わせた点が明らかなのに、無罪とされた点について疑問の声もあがっているが、なぜ女性に無罪が言い渡されたのか。今後、検察が控訴した場合、他の罪で有罪になる可能性はあるのか。刑事事件に詳しい星野学弁護士に聞いた。
●「今回の裁判では無罪判決を下すしかなかった」
「えっ!無罪?どうして?」多くの方がこの判決にこのような印象を持たれたのではないでしょうか?
しかし、判決内容を良く見ますと、裁判所は「女性の行為は罪にならない」と判断したわけではないようです。無罪なのに無罪じゃない。ちょっと分かりにくいですね。少し詳しく説明してみます。
検察官は、女性が「薬物の影響」によって正常な運転ができなかったとして、危険運転致死傷罪で起訴しました。
これに対して、裁判所は、この事故は「薬物の影響」で起きた事故ではないと判断したのです。この女性が薬を服用しても日常生活を問題なく送っていたこと、事故直前まで正常な運転をしていたこと、事故後の血液検査の結果などを理由としてあげています。
もちろん、検察官は危険運転致傷罪が成立しないときに備えて過失運転致傷罪も主張していました。ただ、事故の原因である過失の内容は「眠気を催したのに運転を中止しなかったこと」であるとしました。
でも、裁判所は、女性は事故直前まで正常な運転をしていたのだから「眠気を催した事実」はないと判断をして、「検察官が主張する過失はない、過失がないのだから無罪である」と結論づけたのです。
もちろん、事故態様から見て、女性には、前方不注視、ハンドル操作のミスなど事故の原因となる過失があったはずです。
しかし、裁判所は検察官が主張していない過失があったといって、その過失を根拠に有罪判決を下すことはできません。
そのため、裁判所は今回の裁判では無罪判決を下すしかなかったのだと思います。なぜなら、裁判所は、わざわざ、女性には運転上の過失があった可能性はあるけれど、検察官がそのような過失を主張していないので有罪にはできないと述べているからです。
したがって、検察官が事故の原因である女性の過失の内容を見直して控訴をすれば、控訴審では女性に対して有罪判決が下されるかもしれません。