不適切な会計処理の問題で、第三者委員会から「トップを含めた組織的関与があった」と報告を受けた東芝。第三者委員会の調査報告書では、歴代社長が「チャレンジ」と呼ばれる業績の目標値を設定し、担当部門に達成を強く迫ったことが会計操作につながったと指摘されている。
東芝が7月21日に開いた記者会見で、同日付で社長を辞任することを発表した田中久雄氏は、「目標値にはきちんとした理由があり、各部門には実現可能なレベルで要請していた」と釈明。不適切会計について「直接的な指示をしたという認識はない」と述べているが、その責任が今後問われることになりそうだ。
過去には、粉飾決算を繰り返したカネボウや、損失を10年以上にわたり隠したオリンパスなど、悪質性が高いとして旧経営陣らが逮捕され、刑事責任を問われたケースもある。
東芝でも経営陣が刑事責任を問われる可能性はあるのだろうか。また、問われるとすれば、どんな刑事責任が問われることになるのだろうか。金融商品取引法に詳しい大和弘幸弁護士に聞いた。
●意図的に虚偽記載に関与したかどうか
大和弁護士が解説する。
「第三者委員会の調査報告書では、平成20年度から26年度における税引前利益の過大計上が1518億円にのぼることが指摘されています。そこで、歴代3社長が、重要な事項について、虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した罪に問われるのではないかが焦点になるでしょう」
どのような場合に犯罪になるのだろうか。
「この罪が成立するためには、歴代社長らが意図的に虚偽の記載に関与したかどうかがポイントになりますが、報告書を見る限り、東芝のケースは、過去の粉飾決算の事例とは異なる特色があるように思います」
どう異なるのだろうか。
「東芝は、各事業部門を独立した会社に見立てて運営するカンパニー制を導入しているのですが、一連の『不適切会計』処理は、社長らコーポレート側が、各カンパニーに損益の改善を強く求めた(いわゆる『チャレンジ』)ことが引き金となっているようです。社内カンパニーのトップは自ら不適切会計処理を指示していたようですが、歴代社長らが不正な会計処理を直接的に指示していたことまでは、報告書は認定していません。ある社長は、『会計処理については、財務・経理が適切に行っているはずである』と述べているようです」
●中止や是正を指示しなかったことをどうみるか
では、問題がないとみなされる可能性もあるということか。
「ただし、社長らコーポレート側の認識について、報告書では、意図的な当期利益のかさ上げや費用・損失計上の先送りを社長らが認識していた上で、中止や是正を指示しなかったことも認定しています。つまり、社長らが中止や是正を指示しなかったことが、虚偽の有価証券報告書の提出と同視されるかどうかもポイントになるでしょう。
いずれにせよ、社長らの『チャレンジ』が、カンパニーに対する損益改善要求であったのか、それを超えた、損益調整という違法な会計処理に向けられたものであるといえるかが、罪の成立を左右することになると思います。
なお、理論上、この罪が成立する可能性がある場合であっても、証券取引等監視委員会が、課徴金などの行政処分の勧告にとどめて、社長らの刑事告発をしないことはあり得ます。
過去の大型粉飾決算で刑事告発された事例では、赤字転落を回避するための粉飾が市場を欺いたことなど、強い悪質性が問題とされましたが、今回の東芝のケースは、過年度の有価証券報告書の修正をしても、赤字転落のおそれは低いとみられています。そのような事情も刑事告発の有無の一つの材料となると思います」
大和弁護士はこのように話していた。