いまから54年前、三重県名張市でぶどう酒を飲んだ5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」について、名古屋高裁刑事2部の木口信之裁判長は1月9日、再審開始を認めない決定を下した。弁護側は「不当な決定」として、最高裁に特別抗告を申し立てる方針とされる。
名張毒ぶどう酒事件では、ぶどう酒のビンを公民館に運んだ奥西勝死刑囚が逮捕され、1972年に死刑が確定した。しかし、弁護側は「ウソの自白をさせられた」として、えん罪だと主張。現在、日弁連の支援も受けて、第8次の再審請求が行われている。
この第8次請求では、弁護側から専門家の意見書が「新証拠」として提出された。ぶどう酒の毒物は、奥西死刑囚が捜査段階で供述した「ニッカリンT」ではなかったというものだ。しかし、この証拠について、名古屋高裁の刑事1部は昨年5月、「第7次の再審請求で提出されたのと同じだ」として再審請求を棄却した。弁護団は異議を申し立てたが、同高裁2部も判断を支持した。
●弁護団は「形式的な判断」と批判
弁護団は「7次請求の最終段階で最高裁に提出した証拠を、最高裁は全く検討していない」として、今回の決定を「形式的な判断だ」と批判した。
また、「裁判所が保管する証拠を、弁護側が閲覧・謄写する機会が与えられていない」「多くの証拠が隠されていることを具体的に指摘し、再三にわたって証拠開示を求めているのに、開示が実現していない」などと主張している。
弁護団の稲垣仁史弁護士は「とても承服しがたい不当な決定だ」と話していた。