夜の飲食店で「ぼったくり」。決して許される行為ではないものの、一昔前からよく聞く事案であり、どこか“ありふれた事件”のように受け止めるかもしれない。
しかし、被害額が一晩で700万円を超えるとなれば、話は別だ。
詐欺罪に問われた20代の男性被告人の公判が4月23日、東京地裁であり、検察側は懲役4年を求刑し、結審した。被告人は他の男女2人と共謀し、役割分担のうえで、ぼったくり行為を繰り返していたとされる。
被告人らは、同種のぼったくりを組織的に繰り返しているグループの一員で、先日は“トップ”とみられる人物も逮捕された。関連する逮捕者は20人近くにのぼり、裁判では、その巧妙な手口の一端が明らかになった。(裁判ライター・普通)
●マッチングアプリで標的探し
初公判で、被告人は坊主頭に鋭い目つきで入廷した。2回目の公判では保釈されており、父親とともに出廷したこともあってか、表情はやや柔らかくなっていた。
被告人ら3人は、マッチングアプリでターゲットとなる男性を探し、それぞれ役割を分担して犯行に及んでいた。
被告人は飲食店の店員役、共犯女性は被害者と飲酒する女性役、共犯男性はマッチングアプリで“セッティング役”兼、当日の見張り役だったという。共犯者2人についても、別日に裁判が開かれている。
共犯女性は、被害者と落ち合った後、被告人が待つ飲食店へ誘導する。なお、その店は、ぼったくり行為のためだけに借りていたという。
店では飲み放題メニューを注文したうえで「ゲームに負けたら酒を飲む」と提案。しかし、実際に注文させるのは、飲み放題の対象外で、メニュー表記上は高額な酒とされるものだった。
その結果、飲食代は33万円にのぼった。しかし、被害はそれだけでは終わらなかった。
●「消費者金融までいかないだけ、ありがたいと思えよな」
被告人は被害者を連れて「ATMで金を下ろす」として店外に出る。一方、同じ“被害者”を演じていた共犯女性は、「友人にお金を借りに行く」などと嘘をついて、その場を離れた。
飲食代の支払いを終えると、今度は「あなたの対応をしたことで、予約客をキャンセルすることになった」などと説明し、損害賠償名目で1人220万円、“逃げた女性分”と合わせて計440万円を請求した。
被害者は、現金400万円に加えて、ネックレス2本(90万円相当)を購入させられ、被告人に渡したという。
さらに、「支払いまでに時間が経ったので損害額が上がった」などとして、追加で230万円を被告人名義の口座に振り込ませた。
飲食代金を除いても、被害総額は720万円に達した。
被告人らの供述によると、状況に応じてさらに請求を重ねる手法もあったという。「伝票に漏れがあった」「支払ったのは1人分だけ」などと言って、追加請求するケースもあった。
裁判では、案件ごとに設定されていたテレグラムのグループチャットの内容も明らかになった。そこには「消費者金融までいかないだけ、ありがたいと思えよな」といったやりとりが残されていた。
●父親が法廷で語った戸惑い
弁護側は、被告人が書いた反省文を情状証拠として提出した。
反省文には「利益を追求するあまりに、おこなってしまい反省している」などと記されていたという。
情状証人として出廷した父親は、事件当時は遠方に住んでいたものの、保釈後は被告人を実家で生活させ、定職に就かせるなどして見守っていく考えを示した。
別居していたとは言え、目が届かなかったことについて、父親は反省を口にしつつ、率直な戸惑いもにじませた。
「普通に生活する者にとって、被害額があまりにも多額で。こんな話が、若者の中で成り立つ話なのか、おかしく思わないのか理解に苦しむ」
●「ぼったくりであって詐欺ではないと思っていた」
被告人によると、同種のぼったくりに加担するようになって約2年半が経っていた。関与した件数は「覚えていないほど」だという。
組織の全体像ははっきりしなかったものの、被告人は複数のグループを渡り歩きながら活動し、雑務担当から実行役へと立場を変えていった。犯行にはマニュアルも用意されていたという。
大学を中退した後も都内にとどまり、ギャンブルや浪費を重ねるうちに実家との連絡も疎遠になり、悪い人間関係から抜け出せなくなっていったと語った。
法廷では次のようなやり取りもあった。
弁護人:特殊詐欺って知ってますか。
被告人:電話で警察を名乗ったりして、高齢者などからお金を騙し取る行為です。
弁護人:今回おこなったことは特殊詐欺だとは思いますか。
被告人:対面でおこなっているし、高齢者相手ではないので違うと思う。
被告人は逮捕当初、自身の行為は“ぼったくり”であり、詐欺ではないと否認していたという。組織の上位者からも、そのように教えられたと話した。
匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」に関与した人物の供述からは、犯罪への認識の薄さがたびたび浮かび上がる。
なお、被告人は本件で詐取した金額の15%を報酬として受け取っていた。一方、被害者への弁償は、共犯者が全額おこなっており、被告人自身は弁償していない。
●組織の全容解明は進むのか
検察側は、犯行が組織的かつ巧妙に仕組まれ、常習的に繰り返されていた点を指摘。そのうえで、被告人は中心的役割を担い、高額な報酬も得ていたとして、悪質性は高いと主張した。
これに対し弁護側は、被告人が捜査機関に協力していることや、組織内では下位の立場だったことを強調。犯行もマニュアル化されており、「誰でも実行犯になり得た」と主張した。
また、高齢者を狙う特殊詐欺とは性質が異なるとして、執行猶予付き判決を求めた。
冒頭に述べた通り、すでに一連の犯行を主導していたとみられる人物も逮捕されている。今後、組織の全容がどこまで解明されるのかが注目される。