いわゆる美人局(つつもたせ)で、男性4人から計800万円を脅し取ったとして、恐喝罪などの罪に問われた夫婦に対し、大阪地裁は6月11日、それぞれ懲役3年6カ月の実刑を言い渡した。
手口は、妻がマッチングアプリで知り合った男性を自宅に誘い、性行為中に夫らが複数で乗り込んで脅すというもの。異様な事件を象徴するかのように、夫婦の供述は法廷で大きく食い違った。(裁判ライター・普通)
●「人の家庭で何しとんねん」「会社にも行くからな」
夫婦は同じ法廷で審理を受けたが、筆者が見た限り、数回に及んだ公判で目を合わすことは一度もなかった。
起訴状によると、二人は複数人と共謀し、妻がマッチングアプリで出会った男性を自宅に誘って性交し、その最中に夫らが乗り込んで、現金を脅し取った。
殴るしぐさを見せたり、「人の家庭で何しとんねん」「不倫の慰謝料の相場、今調べてみろ」「会社にも行くからな」などと凄んだという。夫婦はそれぞれの起訴事実を認めた。
●結婚は犯行の1カ月前、わずか2週間で4件
検察官の冒頭陳述などによると、二人が結婚したのは、事件の約1カ月前。起訴された4件は、いずれも、わずか2週間のあいだでおこなわれた。夫の供述では、起訴されていない余罪も含めて9件に上るとみられる。
二人は、被害者との連絡から、自宅に誘う過程まで共有し、反撃を防ぐため外国人を用心棒として雇うなど周到に準備していた。
被害者たちは金銭的・精神的な深刻な被害を訴えたが、自身も不貞行為と認識したうえで関係を持った負い目もあり、複雑な感情を抱えていた。
犯行の経緯は、検察側の証拠によって明らかになったものの、なぜ直前に結婚し、夫婦で犯行に及んだのかははっきりせず、被告人質問で、夫婦の主張が食い違うことになる。
●犯行を計画した「X」の正体
まず、夫の被告人質問がおこなわれた。妻とは出会い系サイトで知り合ったという。
弁護人:どうして、美人局をすることに?
夫:結婚前提で付き合っていたころ、ある日、いきなり「不同意性交罪で訴える」と言われ、嫌なら美人局を手伝うように言われて。
身に覚えのないことであったが、夫には借金があり、金銭的解決が難しそうということで応じたという。だとしても、こんな唐突な要求に応じざるを得なかった理由はこれ以上語られなかった。
犯行の計画立案について、夫自身は関わっていなかったと主張。妻とその知り合いのXなる人物がいて、その2人から計画の全体像を聞かされたという。
用心棒として雇った外国人も、Xから紹介された。余罪も含めた被害総額約1500万円は、自身が約460万円、妻が約800万円、Xに約200万で分けた。外国人への分け前は、自分と妻の分から支払った。
安易に犯行に加担したことを反省して、被害弁償金として60万円を支払ったという。
●愛情は「ない」と言い放った夫
検察官から、さらに内情について細かく質問がされる。最初の事件の10日ほど前に、当時はまだ婚姻関係でなかった妻からXを紹介されたという。
検察官:3人でどういった話になったのですか?
夫:Xから「完全犯罪にもっていくために合法にする」と言われました。
検察官:具体的にどういうことを言われたのですか。
夫:妻と入籍をする。被害者を殴ったりしない。必ず性交する。
夫の認識では、恐喝行為を"合法化するため"に結婚したというのだ。
その後、Xが言うがまま入籍して、"継続的な同居の実績"もなかったという。検察官から妻への愛情を聞かれると、やや答えをかぶせるように「ないです」と言い放った。
Xは犯行の実行には加わらなかったが、指示を出すなどしていた。仮に捕まったときに弁護士への依頼などをすすめているという説明を受けたという。現場の録音録画などのアイデアも、報酬の分配比率もXが決めた。
検察官:今後、自分の何を変えたら犯罪行為をおこなわないと思う?
夫:困ったときに人に言えないのを変えたい。
このように供述する夫だったが、事件当時に犯行に加担することへの葛藤などを語ることはなかった。
●「私は普通に好きだった」と答えた妻
続いて妻の被告人質問がおこなわれた。
Xは、妻の元交際相手の上司で、彼女が勤務していた風俗店のスカウトでもあったという。しかし、妻が出勤をしなくなったことで、スカウトバックが入らないとして、Xから強く詰め寄られていたという。
弁護人:美人局の計画は誰が立てたんですか?
妻:Xが、私が店をドタキャンすることの迷惑料として。
弁護人:どう説明を受けたんですか?
妻:「何回も成功しているから大丈夫、お前は風俗みたいにただセックスしたらええやん」などと言われました。
弁護人:夫とXはどういうきっかけで知り合うんですか?
妻:結婚報告をするときに「それなら二人で美人局したらええやん」って。
つまり、夫は美人局のために結婚したと主張し、妻は最初から結婚の予定だったように主張したわけだ。夫への感情を聞かれると、妻は「私は普通に好きだった」と答えた。
弁護人:夫は脅されたような話をしていましたが。
妻:そんなことないです。
弁護人:夫は事件にどのような感じで関わってましたか?
妻:ノリノリでした。大金入って「ウェーイ」みたいな。
夫は、あくまで借金の返済と脅されていたための犯行と供述していたが、その印象と大きく異なる。しかし、当時の様子を明確に残している証拠があるわけでもない。
妻自身は犯行に消極的だったものの、Xから金の督促が激しいので継続したという。性行為に際しては、Xから避妊しないようにと指示を受け、「妊娠したほうが(賠償金を)取れる」などとも言われていた。
しかし、何度も続く犯行に嫌気が差して「自首をする」と関係者全員に伝えて逃走を図った。夫からは「あと500万円助けて」と言われたが、Xからは充分返済したとして、犯行を終えることができたという。
被害者に対しては、自分がいなければ起きなかった事件である思いで、被害弁償金として145万円を支払った。
●裁判官は「等しく悪い」と告げた
検察は、夫に懲役5年、妻に懲役5年6カ月を求刑した。夫は執行猶予中の身であり、妻には余罪があるなどの要因がある。しかし、奇しくも判決は二人とも懲役3年6カ月だった。
裁判長は、その量刑理由を細かく述べることはなかったが、「等しく悪い」と告げた。その一言が、この歪な夫婦の責任を物語っているように感じた。