奈良市にある東大寺の参道で、2月25日、乗用車に男性2人がはねられて死傷した事故で、奈良県警奈良署は、車を運転していた79歳の男性を自動車運転処罰法違反(過失致傷)の疑いで現行犯逮捕した(その後、処分保留で釈放)。報道によると、男性は「アクセルとブレーキを踏み間違えた」と話しているという。
警察庁の資料によると、特に高年齢のドライバーによるペダルの踏み間違い事故が目立つ。75歳以上の高齢運転者による2022年の交通死亡事故件数(349件)のうち「ブレーキとアクセルの踏み間違い」は7.7%(27件)で、75歳未満の割合と比べると7倍にも上っている。
ペダルの踏み間違いで人を死傷させた場合、どのような罪に問われるのか。
●人の死傷を回避するための行為が必要だった
自動車を運転するうえで必要な注意を怠り、人を負傷または死亡させた場合は過失運転致死傷罪に問われる可能性がある。
【自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条】 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
過失とは、運転するうえで必要な注意を怠ること(注意義務違反)をいう。ペダルの踏み間違いも「過失」にあたるということだ。そもそも、注意義務は具体的にどのような義務なのか。交通事故に詳しい平岡将人弁護士は、次のように説明する。
「具体的には、犯罪結果の発生を予想すべき義務(結果予見義務)と、その予想に基づいて結果の発生を回避すべき義務(結果回避義務)の2つを指します。犯罪結果が発生することをいつ、どの程度予見できたのか、そして、この結果を回避するためにいつ、何ができたのか、ということが問題とされます」
「本件では、参拝者や観光客でにぎわう参道に自動車が進入すれば人を殺傷するリスクはあるでしょう。男性は、この予見される結果(人の死傷)を回避するために、すぐに停止できるよう適切な速度を維持し、危険を察知したらすぐにブレーキ操作をする危険回避行為をとるべき義務があったのです」
一部報道では、ドライバーの男性は参道にある土産物店の関係者で、参道を車で通行するのに必要だった警察の許可を受けていなかったともされている。
過失運転致死傷罪の刑罰には幅があり、重い場合は7年の懲役あるいは禁錮、軽い場合は罰金(下限1万円)まで科される可能性がある。それぞれの事情を総合的に考慮したうえで決まるが、今回の事故では車にはねられた2人のうち1人が死亡し、もう1人は重傷。刑の免除に至ることは考えにくいだろう。