弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 犯罪・刑事事件
  3. 財布に入れた「お清めの塩」を警察が違法薬物と勘違い! 職務質問され地獄の5時間拘束
財布に入れた「お清めの塩」を警察が違法薬物と勘違い! 職務質問され地獄の5時間拘束
写真はイメージ(mits / PIXTA)

財布に入れた「お清めの塩」を警察が違法薬物と勘違い! 職務質問され地獄の5時間拘束

職務質問を受けて荷物を見せたら、財布の中に入れていた「お清めの塩」を違法薬物と勘違いされ、尿検査をする羽目になったーー。このような体験をした人から、弁護士ドットコムに「さすがに行き過ぎでは」との相談が寄せられている。

相談者によると、警察は財布の中の「塩」をみつけると、簡易検査をしたという。結果は陰性だったが「塩だとの確証がない」との理由で警察署に連行され、写真を撮られたり、書類を書かされたりしたそうだ。尿検査も陰性だったが、解放されたのは職務質問を受けてから5時間後だったという。

「高圧的な態度をとられて精神的にも苦痛だったが、謝罪の一言もなかった」と相談者は憤りを感じている様子だ。警察に苦情を申し立てる術はないのか。警視庁刑事としての経験も有する澤井康生弁護士に聞いた。

●警察官の対応「ただちに違法性は認められない」

ーー今回の警察の対応に法的な問題はないのでしょうか。

警察官がおこなった措置は、職務質問とそれに付随する所持品検査ならびに尿検査になります。職務質問は警察官職務執行法2条1項に基づき、警察官が対象者の人定事項などを質問する行為です。強制力はないので、あくまで任意ということになります。

所持品検査については明文規定はありませんが、最高裁の判例によれば、職務質問に付随しておこなうことができるとされています(最高裁昭和53年6月20日判決)。こちらも原則として強制力はなく、あくまで任意ということになります。

警察官は職務質問から始めて所持品検査をおこなった結果、違法薬物と疑われる白い粉末が出てきたことから警察署への任意同行を求め、任意での尿検査をおこなっています。すべての手続きは対象者の同意を得て任意でおこなっているため、違法性は認められません。

ーー相談者によると、簡易検査(あるいは予試験:薬物簡易試験)の結果は陰性だったとのことです。

警察官は検査の結果だけではなく、自供、対象物の状況、色、包装、所持態様、対象者の身体的状況など他の状況証拠を総合的に判断して、嫌疑の有無を判断することになります。

今回のケースの具体的な状況は不明ですが、簡易検査の結果は「陰性」だったものの他に不審事由があったのかもしれません。ここまでのプロセスについては、ただちに違法性は認められないといえるでしょう。

●5時間の留め置き「違法」の可能性も…

ーー相談者は、職務質問を受けてから5時間後にようやく解放されたようです。長時間その場に留め置くことは、法的に問題ないのでしょうか。

参考判例として、神戸地裁姫路支部令和2年6月26日判決があります。覚醒剤の自己使用の事案について、警察署に任意同行された後に帰宅の意思を表示したにもかかわらず、6時間以上にわたって留め置きされた行為の違法性が問題となった事案です。

裁判所は、捜査の適法性の判断基準として「時系列的に必要性、緊急性なども考慮した上、具体的状況のもとで相当と認められる限度内にあるか否かを判断する」としました。

そのうえで、本人が強く帰宅を求めたのであれば、いったん帰らせたうえで追尾などの他の手段を考えることなく本人を留め置いた行為は「任意捜査として許容される留め置きの限度を超えている」と示しました。

この裁判例は、本人が実際に覚醒剤を自己使用し、強制採尿令状の請求に着手していた事案です。対して、今回のケースは覚醒剤ではなく「塩」なので、捜査の必要性、緊急性は高いとはいえないでしょう。

具体的な状況はわかりませんが、相談者が帰宅の意思を明確に示していたにもかかわらず、5時間にわたり留め置いた場合であれば、違法と判断される可能性も否定はできません。

ーー警察官の対応に疑問を感じた場合、苦情を申し立てることはできますか。

はい。警察法79条の規定に基づき、公安委員会に対して書面により、苦情の申し出ができます。公安委員会は誠実に処理し、処理結果を書面で申出者に通知するとされています。

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする