ジャニーズ事務所による10月2日の会見では、創業者・ジャニー喜多川氏の性加害について、児童福祉法違反の共犯などになりうるのではないかといった観点から、東山紀之新社長に対する追及があった。
東山氏は「そういうことについて罪に問われるということであれば、しっかりと受け止めたいと思います」と答えた。この点、会見に同席した木目田裕弁護士は、タレントだった東山氏について「共犯にもほう助犯にもならない」と強く否定している。
それでは、喜多川氏存命のころから要職にあった「現職幹部」については、その刑事責任の有無をどのように考えればよいのか。刑事事件に詳しい元刑事の澤井康生弁護士に聞いた。
●ジャニーズ幹部の刑事責任の有無について
——まず、ジャニー喜多川氏本人の刑事責任はどのように判断できますか。
ジャニー喜多川氏によるタレントへの性加害は、行為当時の相手が18歳未満の児童であれば、少なくとも児童福祉法違反が成立します。
同法は何人も児童に淫行をさせる行為をさせてはならないと規定していて、違反すると10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(または併科刑)とされています。
「淫行」や「児童に淫行させる行為」について、最高裁がどのように定義・判断しているかというと、まず「淫行」は、「青少年を誘惑し、威迫し、欺もうしまたは困惑させるなど、心身の未成熟に乗じた不当な手段により行なう性交または性交類似行為、さらに青少年を単に自己の性的欲望を満たすためにしか扱っていないような性交または性交類似行為」と定義します。
「児童に淫行させる行為」については、「行為者が児童をして第三者と淫行をさせる行為のみならず、行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為をも含むと解するのが相当」と判断しています。
ですので、喜多川氏の児童福祉法違反罪の成立は明らかということになりますが、2019年7月に亡くなった故人のため、起訴しても公訴棄却となり、刑事事件としての立件は困難です。
——事務所の幹部の刑事責任はどうでしょうか。
報道によれば、喜多川氏による性加害は長期間かつ多くの被害者に反復継続してきたということから、事務所の幹部はその事実を認識しながら黙認してきた可能性が考えられます。
喜多川氏が存命だったころから要職にあったジャニーズ事務所幹部の刑事責任について解説します。
●ジャニー喜多川氏の性加害を認識して黙認した場合、幹部の罪が成立する
「児童に淫行させる行為」はもともとは犯人が児童を自己以外の者と性交や性交類似行為をさせることを意味しています。
したがって、事務所幹部が18歳未満のタレントに、喜多川氏との性交などに応じるように説得・命令していた場合には、その幹部は児童福祉法違反の正犯や共謀共同正犯の罪が成立します。
この場合の時効期間は7年間なので、2016年以降も性加害行為があれば立件が可能です(刑事訴訟法250条2項4号)。
続いて、幹部が喜多川氏の性加害を認識しながら、黙認していた場合は、この幹部は喜多川氏による児童福祉法違反の行為を消極的に手伝ったと評価できるため、不作為による幇助犯の成立が考えられます。
たとえば、札幌高裁の判決(2000年3月16日)では、内縁の夫が子にせっかんを繰り返し死に至らしめた事件で、内縁の夫を止めなかった母親に傷害致死罪の不作為の幇助犯の成立が認められています
不作為による幇助犯の成立には、作為義務を有する者において正犯の行為を制止せず放置することが必要です。
これをジャニーズ事務所の幹部にあてはめてみると、幹部は18歳未満のタレントの雇用主として、児童の安全を保護する義務を負っているほか、また事務所の役員として代表者や社員にコンプライアンスを遵守させる義務も負っていることから、喜多川氏の性加害を認識したときには、これをやめさせる作為義務があります。
したがって、幹部が喜多川氏の性加害を認識しながら、見て見ぬふりで黙認していた場合、事務所幹部には児童福祉法違反の不作為による幇助犯が成立します。
この場合の時効期間は5年間ですが、喜多川氏が2019年7月に亡くなる直前まで性加害行為を行っていた場合にはまだ立件が可能です(刑事訴訟法250条2項5号)。