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0歳児を常習的に暴行、母親が法廷で明かした孤独 夫からの暴力、見知らぬ土地で募ったストレス
画像はイメージです(Graphs / PIXTA)

0歳児を常習的に暴行、母親が法廷で明かした孤独 夫からの暴力、見知らぬ土地で募ったストレス

0歳の子どもを抱きかかえて、絨毯やクッションへ放り投げるなどして全治6カ月の骨折を負わせたとして、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪(いわゆる常習傷害罪)に問われた母親に対し、大阪地裁は2023年7月、懲役3年、保護観察付執行猶予4年(求刑懲役4年)の判決を下した。

犯行は生後3カ月から逮捕されるまで、3カ月強にわたって常習的に行われた。裁判では、夫の転勤にともない、慣れない土地で育児をしていた被告人が、夫の暴力や育児のストレスを募らせる中で、犯行に至ったことも明かされた。(裁判ライター:普通)

●夫は「仕事で忙しいんや」 ときには暴力も

被告人は20代の女性で、明るく染めた長い髪はきれいに整えられていた。時折涙を見せながら、言葉を一つ一つ慎重に選ぶように発していた。

冒頭陳述などによれば、夫との間には子が2人おり、被害児は第二子だった。夫の転勤で慣れない土地に移り住み、親や友人など周囲に頼れる人物がいなかった。夫に相談しても「仕事で忙しいんや」と育児の相談ができず、ときに暴力を振るわれることもあったという。

そんな中、なかなか泣き止まない子に対して犯行に及んでしまう。最初の犯行は生後3カ月の時で、週に1回程度だったというが、徐々に週に2、3回と増えていった。

捜査段階での取調べで、「この子が大きくなったときに、懐かないことはないだろう」、「頭が見たことないほど腫れたが、長男が誤って踏んだと嘘をついた」などと供述したことも明かされた。

被告人の両親が様子を見に来た際に、異変に気付き事件が発覚したという。以後、2人の子は施設で保護されている。

●「今後は一緒に暮らしたい」と涙ながらに

弁護人からの被告人質問では、次のようなやりとりがあった。

弁護人「今回の裁判では問われている事件、あなたは何をしたのですか」 被告人「(被害児の名前)を抱きかかえて、ベビークッションやじゅうたんに投げ落としました」

被告人は時に、涙で言葉をつまらせながら答えた。

現在、被告人は親と同居しているが、事件当時は親を心配させたくないとの思いや、「自分で育児を頑張りたい」と考えていたため、親に相談できなかったという。

犯行回数が徐々に増えていったのは、夫へのストレスが高まっていたためだったと話した。引っ越しを予定していたが、夫は荷造りを手伝わず、夜には飲みに出かけてしまう。被告人が負わせた子どもの怪我について、病院に連れて行くことを相談しても、夫は「大丈夫やろ」と言うだけで、それ以来自分からは言えなくなってしまった。

現在、育児に関するカウンセリングを受講し、両親にも育児に協力してもらえる環境を整えていると明かした。しかし、保護されている子どもに会いに行っても被害児は泣き続けてしまうため、会えない状態が続いているという。

法廷で被告人は「今後は一緒に暮らしたい」と涙ながらに供述した。

●意図的に下の子へ犯行に及んでいたのか

検察官、裁判官からの被告人質問では、危険性の認識や当時の心境について繰り返し聞かれた。

裁判官「上の子に暴力は振るってはいなく、下の子だけなのは何故ですか?」 被告人「上の子は物心がついているので」

裁判官「気付いたらやっていたというが、ターゲットを選んでいるんじゃないですか?」 被告人「気付いたらやってしまっていました」

打ち所が悪ければ命に関わる可能性があったとの認識を問われたが、「そのときは考えられなかった」と供述する被告人。犯行は無意識のうちに及んでいたと主張し、怪我を確認しては謝っていたという。しかし自分で病院に連れて行かなかった理由として、「自身の犯行がバレるのが恐かった」とも語った。

●「親としての責任が終わったわけでは当然ありません」

判決は懲役3年、保護観察付執行猶予4年(求刑懲役4年)であった。暴力防止プログラムなどが組まれながら執行猶予の4年間を過ごすことになる。

判決では、一定の育児ストレスがかかる環境であったことは認められたものの、生後半年ほどの子が泣くのは当然で、動機は身勝手と認定。その他、重い障害が残る可能性があった点など犯行の悪質性に多く言及した。

判決の言い渡し後、裁判官は厳しい顔を崩さずも「刑事裁判としては決着するが、親としての責任が終わったわけでは当然ありません。子にとっても親と暮らせるのがいいかと思います。でも、それには相当大きなハードルがある、それをあなたは作ってしまったということを今一度よく考えるようにしてください」と説諭した。

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