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自転車チリンチリンで歩行者ブチ切れ、取り締まり強化は必要? 元警官ライターが考察
画像はイメージです(ぺかまろ / PIXTA)

自転車チリンチリンで歩行者ブチ切れ、取り締まり強化は必要? 元警官ライターが考察

2023年6月、あるTwitterユーザーの投稿が大きな話題を呼びました。子連れで自転車を運転していた女性が歩行者の男性にベルを鳴らしたところ、男性が「どいてほしいなら丁寧に言葉で言え!」とキレてしまい、自転車の前カゴにつかみかかってきたというトラブルに関する投稿です。

自転車と歩行者の男性に接触などはなく、男性からの暴力もなかったようですが、Twitter上では自転車を運転していた女性に対して「そもそも自転車のマナーが悪いんじゃないの?」「自転車って歩道を走っちゃダメじゃない?」といった批判が集まる事態になりました。

今回はTwitterで話題になった「自転車チリンチリン問題」に注目しながら、改めて自転車ユーザーが守るべきルール・マナーを確認していきましょう。(ライター・元警察官/鷹橋公宣)

●自転車は歩道を走ってはいけない

まず、すべての自転車ユーザーが改めて知っておくべきことは、自転車は「交通弱者」ではないという点です。

自転車が巻き込まれてしまった交通事故といえば、車やバイクに自転車がはねられたケースが多いので、どうしても自転車のことを歩行者と同じく交通弱者だと考えてしまう人が少なくありません。

しかし、自転車は道路交通法において「軽車両」、つまり「車の仲間」だと定義されています。

そして、自転車は道路外の施設や場所に出入りするための横断や駐車のために必要な限度でなければ、歩道を通行してはいけないのが原則なので、車道を走らなくてはなりません。(道路交通法第17条1項)

ただし、自転車通行可の標識がある場合や自転車通行区分が設けられている歩道を走行する場合、運転者が児童・幼児・高齢者などで車道を走るのが危険な場合は、例外的に歩道を走ることが認められています。

補助シートを装着して子どもを乗せているときも、子どもが不意な動きを取って倒れたり、そもそも二人乗りをしているので不安定であったりすることを考えれば、車道を避けて歩道を走るのは「例外の範囲」といえるかもしれません。

なお、歩道を走ることが許される条件を満たしていても、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行する、歩行者の通行を妨げるときは一時停止する、歩行者がいなくても安全な速度・方法で走るといった決まりを守らなくてはなりません。(同法第63条の4第2項)

このルールを守らないと、2万円以下の罰金または科料が科せられます。

●「道をあけて」という意思表示としてのベルは違反

弁護士ドットコムでは2021年に一般会員を対象にした「自転車の利用に関する意識アンケート調査」を実施しました。

この調査で、自転車で歩道を走っているとき歩行者がいた場合に「道をあけて」という意思表示としてベルを鳴らすことがあるのかを1173名に質問したところ、23.1%の利用者が「ある」と回答しました。

画像タイトル 「道をあけて」という意思表示としてベルを鳴らすことはありますか? と質問(弁護士ドットコム)

自転車のベルは、道路交通法においては車のクラクションと同じく「警音器」に含まれます。そして同法第54条は「警笛ならせ」の標識がある場所・区間や危険を防止するためにやむを得ないときを除いて、警音器を鳴らしてはならないと定めています。

ここでいう「危険を防止するためにやむを得ないとき」とは、たとえば急な故障などで歩行者に避けてもらわなければ衝突を回避できないとか、前方からスマホを見ながら走ってくる人が急速に接近して避けようがないといったシーンが想定できるでしょう。

もっとも、こういったシーンならかならず「やむを得ない」と評価されるわけでもなく、停止・回避といった動作で危険を回避できるならベルを鳴らすべきではありません。

特に、歩道を走る自転車は歩行者がいれば徐行、歩行者がいなくても安全な速度・方法で走らなければならないのだから、やむを得ない危険が迫ること自体がほぼあり得ないのです。

前方を歩道の幅いっぱいに並んで歩いている人たちがいて、このままでは自転車の進路を邪魔するといった状況は「危険を防止するためにやむを得ない」とはいえません。車道に降りる、自転車を降りて押して歩く、「すみません、通ります」と一声かけて徐行するといった対応が正しいでしょう。

●歩道の自転車チリンチリン問題、警察は積極的に摘発するのか?

全国で自転車による交通違反の取り締まりが強化されています。

では、もし歩道を走る自転車が歩行者に対して「道をあけて」とベルを鳴らす行為があり、その状況を警察官が現認していたり、その場でトラブルになって通報を受けた警察官が駆け付けたりといった状況があったとき、自転車の運転者は厳しく摘発されるのでしょうか?

日ごろから「そこのけ、そこのけ」と言わんばかりにチリンチリンとベルを鳴らす自転車にいら立ちを感じている方は「二度とできないように厳しく刑罰を科してほしい」と望むでしょう。

自転車ユーザーのなかにも「ルールを守らない人がいることで同じ目で見られてしまうのはイヤだ」と感じている人は多いはずなので、社会全体が「自転車チリンチリン問題」には厳しい目を向けているといえます。

しかし、歩道を走りながらベルを鳴らした自転車を見つけたからといって「即摘発!」といった扱いにはならない可能性が高いというのが現実です。

2022年8月に警視庁が各警察署へと通達した取り締まり要領によると、信号無視・一時不停止・右側通行に加えて「徐行せず歩道通行」については、積極的に赤切符を交付するとされています。

これらの違反行為は、いずれも歩行者や自転車の運転者自身が重大な人身事故に巻き込まれる可能性が高いものなので、取り締まりが強化されるのは当然でしょう。

しかし、このなかには「危険を防止するためにやむを得ないときではない警音器の使用」は含まれていません。

たしかに「徐行せずに歩道通行」は危険な行為ですが、ブレーキをかければすぐに停止できる程度の速度で歩道を走る自転車が歩行者に対してベルを鳴らしたからといって、ただちに「違反だ!」と摘発する可能性は低いでしょう。

道路交通法の定めに違反するので街頭の警察官も無視することはないでしょうが、それでも口頭注意や警告カードの交付でとどまるものと予想されます。

もちろん、歩道にたくさんの人がいるのにベルをならして歩行者に回避を強いながら高速度で走る行為や、歩行者と接触してしまった場合などは、厳しく摘発されるでしょう。

●取り締まりを強化すればいいわけではない

歩道における「自転車チリンチリン問題」を考えるにあたって、避けて通れないのが道路交通法の定めです。

Twitterでは多くの意見が交わされましたが、そのほとんどが「当然のように自転車が歩道を走るのは違法」「不必要なベルは違法」というものでした。当然、法律の定めは例外にあたる場合を除いて絶対に守らなければならないので、歩行者に「道をあけて」とベルを鳴らす行為はどう考えても擁護されないでしょう。

しかし、法律の定めに反するのだから厳しく取り締まればいいと安易に考えるのは危険です。具体的に検討してみましょう。

たとえば、道路交通法第10条には歩行者の通行区分に関するルールが定められています。歩行者は、歩道または歩行者等の通行に十分な幅員を有する路側帯と車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄って通行しなければなりません。

また、車道の横断、道路工事などの理由で歩道を通行できないといった場面でなければ、歩道を通行しなければならないと定められています。

法律の定めを理由に四角四面な取り締まりを推し進めていると、いつかは「左側を歩いた歩行者が摘発される」「車道に出たら摘発される」といった堅苦しい社会が到来するでしょう。

道路交通法は、道路における危険を防止し、交通の安全・円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資するという大きな目的をもって定められた法律です。「危険防止のため」という題目で取り締まりを強化するだけでは、円滑な交通は実現できません。

やみくもにルールを守るだけでなく、歩行者・自転車・車やバイクなど、道路を使うすべての人が「危険なことをしない」「交通の流れを妨げない」「事故を起こさない」という意識を高め合うことこそ、道路交通法が理想とする交通社会なのです。

●自転車ユーザーにおぼえておいてほしいこと

「自転車チリンチリン問題」を振り返ると、自転車ユーザーが安全・円滑な交通社会の一員として心得ておくべきポイントがみえてきます。

まず、大前提として「自転車は車の仲間」なのだと再認識してください。自転車のことを歩行者と同じ交通弱者だと考える風潮はすでに過去のものです。車の仲間なのだから、車道を走るのが当然なのだと心得ておきましょう。

歩道通行が許される場面もありますがそれは例外であり、例外が認められるには法律が定める条件を守らなくてはなりません。

言うまでもなく、歩行者に「道をあけろ」とベルを鳴らすなど、あってはならない行為です。もし、歩道を歩いているとき、歩道に進入してきた自動車が「道をあけろ」とクラクションを鳴らしてきたら、どう感じますか?

おそらく「なぜ歩道を走っているんだ!」「歩行者優先なのに、道をあけろなんて横暴だ!」と怒りを感じるでしょう。「自転車チリンチリン」は、それと同じ行為です。

次に、自分勝手な運転や無謀な運転は、すべての自転車ユーザーを苦しめることにつながるということをおぼえておいてください。

近年、自転車に対する取り締まりが強化された背景には、「ながらスマホ」による重大な事故の発生や、時間を急ぐフードデリバリー配達員の無謀運転といった社会問題が存在しています。

全国で「自転車チリンチリン問題」のようなトラブルが多発し、社会が大きな声を挙げれば、自転車運転に対する規制はますます厳しくなるでしょう。

自転車は、日常生活における利便性が高く、爽快感も高い乗り物ですが、法律の規制がさらに強化されれば自転車のメリットは大きく損なわれてしまうかもしれません。誰もがこれ以上堅苦しい思いはしたくないはずなので、歩行者やほかの車を思いやる優しい運転を心がけてください。

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