マンションの一室から覚醒剤と大麻が見つかり、指定暴力団の組員らが逮捕された事件を報じたニュース記事が「通報者が特定されるのではないか」と物議をかもしている。専門家は「市井の人々が情報提供をためらうような影響も考えられる」として、メディアの報道のあり方に一考をうながしている。
⚫︎「隣のカップルが…」限りなく特定される報じ方
〈「隣のカップルがケンカ」20代男女が“墓穴” 駆けつけた警察官が大麻“140万円分”発見 芋づる式に暴力団員も逮捕 警視庁〉
フジテレビ系のニュースサイト「FNNプライムオンライン」が掲載した記事のタイトルだ(2023年6月14日)。
報道は警察の捜査内容などを紹介するかたちでつくられている。記事によると、今年2月に覚醒剤や大麻などを隠し持っていた疑いで、指定暴力団住吉会系組員の男性と、男女の計3人が5月に逮捕された。また、6月9日に組事務所を家宅捜索したという。
事件発覚の端緒として、次のような説明がされている。
〈現場マンションの住人から、「隣のカップルがデカい声でケンカをしている」との110番通報があり、板橋署の警察官が駆けつけたという。〉
こうした内容やタイトルからは「マンションに住む部屋の隣の住人が通報した」と読み取れるため、通報者が特定されるおそれがあると心配されているのだ。
集合住宅であれば通常、「隣の部屋」は2戸。もし角部屋なら1戸まで限定されてしまう。
この事件をめぐっては、複数のメディアも同時期に報じているが、通報者を特定させる伝え方を避けていた。
記事配信先のヤフーニュースのコメントやTwitterには、「これ通報してくれた人の引越しの手引きとかしてあげないとマズいんじゃ…」「隣室という事が報道で明らかにされると、関係者からの報復が生じ得る」など批判的な反応が相次いでいる。
⚫︎他の事件でも捜査協力への影響が懸念される(専門家)
今年2月に起きた事件だったことから、通報者がすでに引越したなど、さまざまな事情があって、あえてこうした報じ方をしている可能性も考えられる。
しかし、反社会的組織の対策にくわしい青木知巳弁護士は「警察から提供された情報を扱う側のメディアは、提供された情報をどのように伝えるか、常に考えてほしいと思います」と指摘する。
「通報を受けて逮捕されるなどした反社会的な組織・個人が通報者を逆恨みし、危害を加えようとする可能性もゼロではないため、どこまで許容されるかはともかく、『近隣の住民』など書き方を工夫してもよかったのではないでしょうか。
この報道に接した人の中には、将来、自分が事件を見聞きした際に通報をためらう人が出てくる可能性もゼロではありません。
反社の捜査をおこなう警察にとって、市民からの通報は貴重な情報です。それを萎縮させてしまうことがあるとしたら、社会にとっても損失になると思います」(青木弁護士)