動物が自分から被害を訴え出られないため、動物に対する虐待事件はなかなか表面化・事件化することがないとされている。そうした動物虐待事件の被害を受け付け、刑事告発を目指すNPO法人「どうぶつ弁護団」(兵庫県伊丹市)が、弁護士や獣医師ら専門家によって設立された。
12月1日には、情報提供の受付を公式サイトでスタートするなど、本格的な活動が始まったばかりだ。
理事長をつとめる細川敦史弁護士は「サイト公開前から問い合わせも届いており、期待を感じるとともにプレッシャーもある」と話す。
●警察にとって「まだノウハウがない」「難しくて面倒臭い」動物虐待事件
「動物虐待事件が発生した場合に、適切な処分を講じるための活動が主な事業内容となります。その先にある理念は、動物虐待の予防によって、人と動物に優しい社会を目指すことです」
動物愛護の問題に精力的に取り組んできた細川弁護士のもとには、動物虐待の被害情報がこれまでも届いていた。
「ただ、従来は被害の発見者が告発費用を負担する必要があり、そこにはどうしても限界を感じていました。動物虐待が事件化しにくいのは、こうした経済的負担の問題の影響がないとは言えないと思います。NPO法人にしたことで、活動費を各種助成金や賛助会員からの会費など、みんなで少しずつ負担することになります」
どうぶつ弁護団では、動物虐待の可能性がある情報を受け付け、調査し、刑事告発につなげていく。こうした目的の団体は全国でも初だという。立ちはだかるのは、動物虐待になかなか動かない捜査機関だ。
取材中の細川弁護士
「動物虐待は、密室でおこなわれ、外部から認識されにくいため、表面化・事件化しにくいと思われます。当たり前ですが、動物は自分で殴られたとは言えないし、被害届も出せません。一般の方が、負傷した動物を見つけても動物病院で治療して終わったり、死骸が発見されてもかわいそうだと火葬したりして証拠が残らない場合もあります。
また、多頭飼育崩壊事案では、被害動物がミイラ化や白骨化していることもあり、捜査機関が虐待行為の結果として死亡したのか、因果関係の判断に悩むことも少なくありません。とにかく、警察にとっては難しくて手間のかかる事件でしょう。被疑者の目星もつけられない事案も多く、検挙率は上がらない。身柄事件など、ほかの事件を優先的にやらなければならないという本音もあると思います」
ただ、最近では、動物虐待が人に対する重大犯罪につながる可能性も指摘されている。少しづつではあるが、警察の意識が変わっている兆しは感じられるという。
●やみくもに事件化せず、冷静に事案を精査していく
集められた動物虐待の可能性がある事案を調査し、場合によっては動物愛護法違反などの罪で刑事告訴に動く。その際、弁護士の法的知見だけでなく、連携した獣医師の意見にも耳を傾ける。
「今までの刑事告発にあたっては、診察にあたった獣医師の診断書さえもらえば、警察に申告できていたという事情もあり、獣医師や獣医師会と連携して事件を検討することの必要性は特に感じていませんでした。しかし、実際に獣医師と具体的な事件について協議したところ、弁護士だけでは到底出てこないような意見が出てきました。
現在進行中の事案であるため詳しい内容は言えませんが、被疑者の行為態様について、弁護士たちが考えていたものとは違う可能性があるといった指摘がありました。その意見もふまえて、作戦を練り直しました。
私たちは、何でもかんでも事件化することをよしとしていません。集められた被害事案を冷静に分析することも、長期的には団体の信頼を高めることにつながると考えています」
●いずれは全国展開できる組織に
どうぶつ弁護団では「虐待事案に適切な処分」を求めていく。捜査機関にプレッシャーをかけつつ捜査の後押しをするとともに、適切な処罰が下されることも提言していく。
動物愛護管理法の改正(2020年6月施行)によって、動物虐待は厳罰化された。殺傷罪は懲役5年以下か罰金500万円以下に引き上げられ(改正前は2年以下・200万円以下)、虐待罪や遺棄罪も1年以下の懲役または100万円以下の罰金(改正前は100万円以下の罰金)となった。
ただ、実際の判決への反映はあまり感じられないところで、略式起訴で10万円、20万円といった罰金にとどまるケースが目立つという。
「実際に事件も扱っておりますし、報道内容を見る限りの感想となりますが、ひとつの仮説としては、法定刑の上限がいきなり2.5倍になったこともあるのでしょうか。法律家の感覚からすると、これだけ大幅に引き上げられることはなかなかない。現場はまだ重罰を科すことに戸惑いがあるのかもしれません」
今年9月の設立以降、全国の弁護士からも団体に賛同する声があがっている。各地の弁護士会や有志に事業の説明をする機会も予定されている。いずれはそうしたつながりから、全国的な活動に広げていきたい考えもあるとしている。
●多くの猫が死んだ壮絶な現場
この記事に使われた画像は、群馬県で放置された猫が大量に死んだ事件の現場だ。空っぽになった食事用の皿に体を寄せながら死んでいる猫もいた。
現場では白骨化やミイラ化が進み、共食いもあったとされ、正確な数は把握できないという。前橋簡裁は2019年10月、動物愛護法違反罪で、世話をしていた男性に罰金10万円の略式命令を出した。
【悲惨な虐待の実情を伝える動画はこちら(※モザイクをかけていますが閲覧には注意してください)】