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ヤングケアラーだった小学生兄弟のその後 居場所のない子どもたち
画像はイメージです(yoshan / PIXTA)

ヤングケアラーだった小学生兄弟のその後 居場所のない子どもたち

2021年8月、大津市内で母親の代わりに面倒をみていた兄(無職=当時17)による暴行で、小1の妹(7)が亡くなる痛ましい事件が起きた。経済的な理由などで、別々の児童養護施設で育っていた兄妹が母と3人で暮らすようになったのは、わずか4カ月前のことだった。

「言えることは決して特別な事件ではなく、大津市内には同じような状況でこの夏休みを過ごしている子どもたちはたくさんいるということです」

事件の直後、ブログでそう書いたのは、大津市内で子どもと若者の居場所作りなどの支援をするNPO法人の理事長・幸重忠孝さんだ。居場所のない子どもたちの切なる願いとは何か。そして社会はどう関わることができるのだろうか。(ルポライター・樋田敦子)

※『コロナと女性の貧困2020-2022――サバイブする彼女たちの声を聞いた』(著:樋田 敦子・大和書房)の一部を再編集したものです。

●ヤングケアラーの兄弟、その後

大津市内で2016年から、子どもと若者の居場所(「トワイライトステイ」「ほっとるーむ」「ジョブキャッチ」などを運営)を作り、支援をしているNPO法人「こどもソーシャルワークセンター」理事長、幸重忠孝さんは、最初のニュースを聞いたときに、「またか」と思ったという。

「子どもたちの支援者や町の人はショックだったと思います。僕もショックだった」 幸重さんは自身のブログに、次のようにつづっている。

〈言えることは決して特別な事件ではなく、、この大津市内には同じような状況でこの夏休みを過ごしている子どもたちがたくさんいるということです。(中略)一人やひとつの団体で出来ることは限られていますが、ぜひみなさんの力を貸してください。〉

幸重さんとは、16年に子どもの貧困の取材で出会った。

当時、大津の二階建て一軒家で「こどもソーシャルワークセンター」のトワイライトステイを始めたばかりで、小学生の兄弟が遊びに来ていた。トワイライトステイというのは、保護者の夜間就労、病気や障がいなど、さまざまな家庭の事情で寂しくしている子どもに対して、家庭的な規模で一緒に過ごす取り組みだ。

週に1回(当時)、小中学生が学校を終えて午後5時ごろにセンターにやってきて、調理ボランティアが作ってくれた夕食を食べ、近所の銭湯に行き、スタッフとボランティアが自宅まで送り届ける。そのとき来ていた小学生の兄弟は、ボランティアとゲームをして遊んでいた。その子たちは高校生になったという。

「お兄ちゃんのほうは、不登校になっています。障がいのあるお母さんを抱えたヤングケアラーで、昼夜逆転になっているようです。一方、弟のほうは部活に居場所を見つけて、友達もできてリア充です。兄にも支えてくれる誰かと出会って楽しく生きていってほしいです」

また、そのとき幸重さんが支援していた女子中学生は、その後、施設に入った。高校を中退 し、現在は施設を退所し、ひとり暮らしをしているという。オーバードーズ(薬物の過剰摂取)におちいったこともあったが、少しずつ立ち直り、幸重さんに電話で「成人式祝ってよ」と言うまでになった。

「子どもや若者は、頼る人がいないんです。貧困問題を抱える子どもたちは、そのまま貧困を抱える若者になっていきます。年齢が上がれば上がるほど、家の問題と学校の問題がより深刻化するのです。勉強についていけなくなって学校に行けなくなることもある。

僕らが、こうやって安全と安心を提供する居場所事業をやっていても、家の困窮状態や学校に通えないのが解消するわけではない。けれども、ソーシャルワークセンターという居場所がある。何か次のステージに進んだときに、何かトラブルがあったときに、戻って来られる場所がある。何かつながっていける場所がある。大人たちがつねにいてくれる場所って必要なんですよ」

地道にやってきたが、このコロナ禍で思うようにはいかなかったという。学校が一斉休校になった2020年3~5月までは週2回の受け入れを7回に増やし、毎日開けて、受け入れ時間を拡大した。コロナ前は微々たる補助金の中で、できる範囲のことしかできないと思っていたが、コロナ以降、腹をくくった。

コロナ感染拡大による全校休校は致命的だったが、なんとか助成金を受け、職員を雇い、態勢を整えることができたという。普段から家庭的な雰囲気を重視して、3人程度を受け入れていたが、この一斉休校中は、朝、昼、夜の部に分けて、のべ 337人が来所した。

「ほんとに助かります、ありがとうございます、と保護者は言って、3ヶ月間は次々に子どもたちがやってきました。しかし学校が再開しても、終わりじゃないのです。ここにやってくる子どもたちは、おもに貧困や虐待、ヤングケアラーなどで家庭がしんどい子なのです。今は30人くらいが引き続き来ています。小学生、中高生、若者が1対1対1の割合です。センターは地域の中で受け入れる場なので、卒業や年齢による支援終了はありません」

家でゆっくりできる子はいいが、そもそもリビングがあって、自分の部屋がある子ばかり ではない。2部屋に家族10人が暮らしている家庭もある。学校はタブレットを配って、オンライン授業になったが、家での授業は集中できない。

「いつ赤ちゃんが横で泣き出すかわからない。いつ家族が物音を立てるかもしれない。そんなところで1日中過ごしていたらストレスがたまるでしょう。以前なら学校が居場所になり、その後はマクドナルドで時間をつぶすことができたけれど、まん延防止で夜8時になったら帰るしかない。家に帰れば家族内でいざこざが起こっていて、いたくない。彼らがどこに助けを求めるの? といったらネットの中なのです」

幸重さんのNPO団体では現在、クラウドファンディングを実施中だ。 京都地域創造基金・事業指定寄附「つながりを意識したヤングケアラー支援事業」 https://www.plus-social.jp/project.cgi?pjid=131

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