人気アニメ『ガールズ&パンツァー』のコラボカフェが、食い逃げ被害にあったとツイッターに投稿して話題になっている。
防犯カメラ映像とともに、被害届を警察に提出していたところ、このほど「食い逃げ」をしたとする人物から謝罪文と現金が送られてきたという。
店のオーナーは「受け取ってしまった場合、罪に問えなくなってしまうのでしょうか」と心配している。弁護士が刑事手続きへの影響を解説する。
●子連れ男女の大胆な行動
被害を訴えたのは、人気アニメ『ガールズ&パンツァー』のコラボカフェ「ガルパン喫茶 パンツァーフォー」(茨城県)だ。
赤ちゃんを連れた男女2人が9月11日午後に来店し、ハンバーガーと飲み物を注文したが、食べたあとに代金(1760円)を支払うことなく、店を出て行ったという。
店の防犯カメラには、2人の様子が映っており、翌々日には警察に被害届を提出した。この件はフジテレビなどがニュース番組で取り上げた。
オーナーの和田淳也さんは「その後、9月20日に食い逃げ犯を名乗る人から店に『料金を払いたいから口座番号を教えて』と電話があり、10月17日になると、今度は謝罪文と代金が現金書留で送られてきました」と話す。
「もしこのお金を受け取ってしまえば、被害届は取り下げになってしまうのではないか」と心配している。
和田さんとしては、店の営業を止めて警察の捜査への対応に費やしたこともあり、被害額以上の損害を受けたと考えており、罪に問えないとなることには不服があるようだ。
「飲食店の多くが食い逃げで泣き寝入りしていると思います」
代金を受け取ることで、捜査などに影響はあるのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。
●弁償しても詐欺罪は消滅しない
——食い逃げ犯から送られてきた代金を受け取った場合、罪に問えなくなるのでしょうか
無銭飲食の場合、理論的には詐欺罪が成立する場合(最初から騙す意思があった場合)と成立しない場合(飲食後にお金がないのに気が付いて黙って立ち去る場合)があります。
今回のケースでは、男女が飲食物を注文して飲み食いした時点で、詐欺罪(既遂)が成立したという前提で話をすすめます。
その場合、あとから代金相当額を弁償したとしても、いったん成立した詐欺罪が消滅するわけではありません。詐欺罪は成立したままとなります。
被害届についても自動的に取り下げとなるわけではありませんし、取り下げの義務が生じるわけではありません。
以上より、代金相当額が弁償された場合であっても、被害届を取り下げる必要はありません。
特に今回のケースは、相手が一方的に代金相当額を送り付けてきたに過ぎず、店側が示談に合意したわけではありませんので、なおさら被害届を取り下げる必要はありません。
●示談成立していなくても、代金支払いの事実は有利な情状として働く可能性がある
——起訴・不起訴、判決への影響は考えられますか
一般論として、刑事事件において、容疑者や被告人から被害者に対して、示談の申し入れをして、示談金を支払って示談することはよくあります。応じるかどうかは、被害者側の自由です。
通常、申し入れは、実際の被害額に多少金額を上乗せして被害者が示談を受け入れやすい条件にします。
示談が成立すれば、本来、起訴相当の事件であっても、起訴猶予にしてもらえる場合があります。また、起訴されてしまった場合であっても、示談が成立していれば、本来、実刑相当の事件であっても執行猶予が付く場合もあります。
ここでいう示談というのは、民事上の契約なので、両当事者の合意が必要であり、通常は示談契約書を作成して調印します。
これに対して、今回のケースは、被害者の意思を無視して一方的に代金相当額を送りつけてきただけと考えられるので、被害者が示談に応じたとはいえず、契約は成立していません。
仮に起訴されて裁判となった場合、示談が成立したわけではないので、ただちに有利な情状とはなりませんが、とにかく代金相当額を支払ったという事実は、有利な情状の一つとして考慮される可能性はあります。