東京拘置所にいる死刑囚の男性が、14年4カ月にわたって監視カメラ付きの部屋(以下、カメラ室)に収容されたのは違法だとして国に対し1892万円の賠償を求めて近く提訴する。
訴状案では、カメラ室では着替えや排泄の様子などすべての挙動が24時間撮影されていたと説明。「プライバシー権侵害は甚大で、精神的損害は1カ月10万円をくだらない」と主張している。
●「死刑囚は全員カメラ室」に疑問
男性は2007年に殺人罪などで死刑判決を受け、2013年に最高裁で確定している。2007年10月の入所から今年3月までカメラ室に収容されていた。
男性の代理人大野鉄平弁護士によると、昨年夏ごろに相談があり、手紙等でやりとりしてきた。今年になって、東京拘置所にいる男性ら5人と面会をした上でカメラ室の実態を聞き取ったという。
東京拘置所「所内生活の心得」から抜粋し、原告側が作成したカメラ室の見取り図。真ん中の黒丸が天井の監視カメラ
カメラ室は3畳半ほどで、天井にカメラが設置されており、居室内で遮るものはないため、すべての様子が撮影できる状態となっている。
5人は「死刑囚は全員がカメラ室に入るもの」と口頭で職員から説明を受けていたものの、実際にはカメラ室に入っていない死刑囚がいたことが判明。運用基準が曖昧だと提訴に至ったという。
●3カ月のカメラ室収容で慰謝料認めた判例も
訴状案によると、カメラ室に関する法律はなく、刑事施設長が決める細則で規定されている。東京拘置所の場合は「特別要注意者」は原則としてカメラ室に収容するとしており、死刑囚については「特に厳格な監視の必要がある者」とされる。
男性の場合、2007年10月の入所から一度も懲罰を受けていない上、自殺や逃走、暴行などに及んだこともないため「要注意者」には当たらないと説明。「東京拘置所は、必要性を十分検討せず、漫然と収容を継続した」と主張している。
2018年には熊本地裁が、216日間にわたってカメラ室に収容した事例で「必要性がなくなったにもかかわらず、漫然と収容を継続することは許されない」として3カ月間の収容について慰謝料を認める判決を出している。
大野弁護士は取材に対し「カメラ室収容の基準が曖昧で、裁判を通じて運用の実態を明らかにする必要がある」と話している。