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やめられない性犯罪「依存症」疑われる人も…立ちはだかる法制度の「壁」と進まぬ理解
画像はイメージ(Graphs / PIXTA)

やめられない性犯罪「依存症」疑われる人も…立ちはだかる法制度の「壁」と進まぬ理解

「今まではゲーム感覚でやっていたけど、治療を受け始めてから、被害者の気持ちを想像できるようになった」。性暴力を続けていた男性は、ある日、弁護人にこう言った――。

被害者の尊厳を踏みにじる「性犯罪」。法の裁きは必要だが、性犯罪事件を複数手がけてきた中原潤一弁護士は、加害者の中には「性依存症」の疑いがある人もいると指摘する。

●性犯罪者への厳しい目線、示談は「被害者のことを一番に」

強制性交等、強制わいせつ、痴漢、盗撮などの「性犯罪」が報じられるたびに、世間からは「死刑にしろ」「一生刑務所から出てくるな」など、極刑を望む非難が巻き起こる。

何より、深刻な影響が及ぶのは被害者だ。外出できなくなったり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの症状に悩まされる人もいる。

中原弁護士も、性犯罪をおかした人の弁護をする中で、被害者から「なんでこんなことをしたのか」「本人は反省しているのか」「なぜ、私なのか」などの怒りや疑問の言葉を耳にしてきた。

被害者の家族もまた、行き場のない怒りや悲しみに苦しむこともある。中には「親の教育が悪い」と、加害者の親に怒りをぶつけてしまう人もいるという。

「ある弁護士から聞いた話ですが、被害者の両親から『加害者の両親を呼んでほしい』と言われ、喫茶店で話をする機会をつくりました。被害者の両親は、加害者の両親に対し、店内で土下座をするように要求したそうです」

被害者やその家族、そして世間からみれば、性犯罪者の「味方」となる刑事弁護人も「悪」にみえることがあるかもしれない。中原弁護士は、次のように語る。

「刑事弁護人が『加害者の味方』であることは間違いありません。被害者には、刑事弁護人が『依頼者の利益のため』に動くということを正直に伝えています。

ただ、私は『被害者のことを一番に考えた示談をする』ことが、『依頼者の最善の利益』になると思っています。

示談交渉にあたるときは、被害者が納得できるような条件を一緒に考え、提案するようにしています。たとえば、電車内の痴漢であれば『(被害者が利用する)乗車区間は使わない』、被害者が加害者に近づかれることに不安感を抱いていれば『二度と近づかない。故意に近づいたことが明らかになった場合は一定の慰謝料を支払う』、『性依存症のクリニックに通院する』などです。

できるだけ被害者に安心してもらうことを第一に考えていますが、刑事弁護人からの提案が中立的ではないのも事実です。条件を出したあとに、被害者に『もしよかったら、この条件の内容について、ほかの弁護士にも相談してみてください』と話すこともあります」

中原弁護士が担当した事件については、被害者が検察官を通じて連絡先を教えてくれた場合は「ほぼ示談が成立している」という(den-sen / PIXTA)

●「やめたいけれど、やめられない」思い悩む加害者も

被害者やその家族はもちろん、世間からも厳しい目を向けられる性犯罪者たち。しかし、性犯罪を繰り返す人の中には、「性依存症」が疑われる人もいるという。

性依存症は、性的な欲求や衝動をコントロールできず、逸脱した強迫的性行動がやめられなくなる病気の一種。治療につながることで、再犯防止につながる可能性はある。

中原弁護士は、何度も同じ行為を繰り返していたり、「やっている行為とリスクが見合っていない」などと違和感を覚えた人に対して、治療をすすめることがあると話す。

「特に痴漢を繰り返す人に多いのですが、『やめたいけれど、やめられない』と思い悩んでいる人たちがいます。このような人たちにクリニックを紹介すると、すすんで受診してもらえることが少なくありません」

仕事や学校を辞めて治療に励む人もいれば、仕事を続けながら通えるクリニックにつながる人もいるという(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

一方、性依存症が疑われるものの、クリニックに足を運ぶことに消極的な人もいる。この人たちとは、まず、不起訴、執行猶予、罰金など、どのような処分を目指すかについて話し合うという。

「目標とする処分を決めた後は、その処分を得るためには、被害者や検察官、裁判所に『確かに反省していて、二度と同じことはしない』と思ってもらう必要があることを説明しています。

本人がどんなに反省していたとしても、内心は外からは見えにくいものです。しかし、それまでしていなかった活動を始めれば、『反省している』ことが、ある程度は見えやすくなります。クリニックに行き、自分で原因を追求し、今後の再犯防止策を立てたことを言えるようになれば、被害者や裁判所に伝わる可能性があると話しています」

多くの場合、納得して病院に通うものの、効果には半信半疑のまま通い始める人もいるという。

ある男性は、治療を受けることが「条件」だったため、しぶしぶクリニックに通い始めた。当初は「自分に治療は必要ない」と思っていたが、ある日、中原弁護士に「すごくよかった。自分に問題があるということがわかった」と語ったという。

●日本には、依存症に特化した裁判所がない

中原弁護士が性依存症の疑いがある人たちと向き合う中で、難しさを感じていることがある。その一つは、家族の理解を得ることだ。

「窃盗を繰り返すクレプトマニアについては、ある程度認知されてきたものの、性依存症についての理解が得られにくいことはあります。どうしても『意思が弱い』という話になりがちです。もちろん、家族の心身にも相当な負担がかかります。必要に応じて、家族会や支援団体を紹介しています」

裁判官の理解度によって、判断が変わることもありうるという(hiro Viewer / PIXTA)

法制度の「壁」にも課題を感じている。日本には、性依存症に限らず、薬物や万引きなどの依存症に特化した裁判所はない。依存症についての理解の程度も、裁判官によってさまざまだ。

「裁判では、この人を『刑務所に入れてどうするんだろう』と疑問に思うこともよくあります。たとえ治療に取り組んでいたとしても、再び罪をおかしてしまえば、刑務所に行くことになる場合がほとんどです。この場合、せっかく始めた治療を中断し、私たちの手を離れて、その後どうなったのかがわからなくなってしまうことも少なくありません。

たしかに、日本の刑務所内には、性犯罪再犯防止指導(R3)などのプログラムもありますが、誰もが受講できるわけではなく、回数も限られています。たとえば、アメリカのドラッグ・コート(通常の刑事司法手続ではなく、薬物依存症の回復を促すための特別な手続をおこなう裁判所)のように、依存症に特化した裁判所があるとよいと考えています」

プロフィール

中原 潤一
中原 潤一(なかはら じゅんいち)弁護士 弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所
埼玉弁護士会所属。日弁連刑事弁護センター幹事。刑事事件・少年事件を数多く手がけており、身体拘束からの早期釈放や裁判員裁判・公判弁護活動などを得意としている。

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