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フリマアプリでも売買される「合法大麻」HHCが規制対象に 専門家は「イタチごっこ」懸念
厚生労働省(yu_photo / PIXTA)

フリマアプリでも売買される「合法大麻」HHCが規制対象に 専門家は「イタチごっこ」懸念

「HHC」という化学物質をご存知だろうか。正式名称は「ヘキサヒドロカンナビノール」といい、大麻成分のひとつと似た効果が得られるとされるが、規制されていないことから「合法大麻」と呼ぶ人もいる代物だ。一部の若者の間で人気で、フリマアプリなどで売買されている。

ところが、厚生労働省は3月7日、このHHCなど、6つの物質を「指定薬物」として指定する省令を公布した。3月17日から、医療などの用途以外で、製造・輸入・販売・所持・購入・譲受・使用することが禁止される。

今回の規制を受けて、ユーザーからは困惑の声があがり、販売者も対応に追われている。なぜ、HHCは規制対象となったのか。

●SNSの投稿やデータを考慮しての判断

厚生労働省の監視指導・麻薬対策課の担当者によると、3月4日に開催された同省の審議会で、HHCは「指定薬物」の定義に合致すると判断されたという。国内外での流通状況や毒性データに関する論文などを踏まえたうえでの判断だという。

そもそも、どのような物質が「指定薬物」にあたるのか。

薬機法は、「指定薬物」について(1)中枢神経系の興奮もしくは抑制または幻覚の作用(当該作用の維持または強化の作用を含む)を有する蓋然性(がいぜんせい)が高く、かつ、(2)人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物、と定義している。

危害が発生するおそれがあるのだとすれば、これまで、HHCを使用したことによる事故などが起きたことはあるのだろうか。担当者は、次のように話す。

「事故などがあったということは承知していませんが、『指定薬物』の定義に当てはまると思われる使用感を述べているSNSの投稿は見られました。もちろん、SNSの投稿のみではなく、毒性データなどを考慮しての判断だと思われます」

2021年12月ごろに市場にあらわれてから、規制されるまでのスピードにも注目が集まっている。担当者は、次のように説明する。

「麻薬取締部では、(大麻草から抽出された)CBD(カンナビジオール)が大麻取締法の『大麻』に該当するかどうかという点について、確認をおこなっています。これに関連して、冬にかけて、HHCに関する問い合わせが急激に増えているという状況も踏まえて、ということもあると思います」

詳しいことは、今後公開される審議会(薬事・食品衛生審議会薬事分科会指定薬物部会)の議事録に記載される予定だという(公開時期は未定)。

●「THCの代替品」として市場に流通?

医療大麻に関する啓発団体、一般社団法人「Green Zone Japan」の代表理事で、日本臨床カンナビノイド学会の理事もつとめる正高佑志医師によると、流通しているHHCは大麻成分のひとつであるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の代替品として、化学的につくられたものと考えられるという。

同じく大麻成分のひとつであるCBDとは異なり、THCには精神作用がある。オイルなどのCBD製品は市場に出回っているが、大麻取締法は成分ごとの規制をしているわけではない。法律が規制する「大麻」にあたらないとされているのは、大麻草の成熟した茎や種子のみから抽出・製造されたCBDを含有する製品ということになる。

ただし、厚生労働省地方厚生局・麻薬取締部の資料には、CBD製品を輸入する際に、税関や検査などでTHCが検出された場合は、「『大麻に該当する』ものを輸入したものとして大麻取締法に基づき処罰を受ける可能性」があると書かれている。

正高医師は、次のように分析する。

「THCと化学構造が類似しているHHCには、THCと似た精神作用がありますが、現行法上は規制対象ではありません。そのため、海外からの輸入が始まると、大麻の合法的な代用品として急速に支持を広げたと考えられます」

正高医師によると、今年2月3日に開催された「CBD議連」(カンナビジオールの活用を考える議員連盟)の第4回会議で、すでにHHCについての言及があったという。

「この会議は、厚生労働省・監視指導麻薬対策課の呼びかけで召集されており、危険ドラッグについてのプレゼンテーションやHHCの話があったと聞いています。この時点で、HHCの規制に積極的に反対する意見はみられなかったようです」

規制に至るまでのスピードが早かったことについては、SNSを使ったマーケティングや情報の拡散も要因のひとつとして考えられるとのことだ。

「THCに合法的にアクセスができる環境ではニーズが乏しいため、積極的にHHCという物質に注目し、研究しようという人も少なかったのかもしれません。また、市場に出てきてからわずかな時間しか経っていないので、国内におけるHHCの研究は、ほとんどおこなわれていないのではないかと思います」

●正高医師は「イタチごっこ」に懸念

正高医師が懸念するのは、いわゆる脱法ハーブなどをめぐる規制がおこなわれていた2010年代と同じような「イタチごっこ」が再燃することだ。THCの代替品としてHHCが市場にあらわれたように、HHCにかわる別の物質があらわれる可能性があるとみている。

「2010年代の脱法ハーブをめぐる規制については、2つの見方があります。

1つは、厚生労働省が突如登場した危険な薬物を規制し、規制逃れのために登場した次世代の脱法ハーブを取り締まるために規制の網を広げ、最終的に刑罰によって脱法ハーブを撲滅したとの見方です。

もう1つは、そもそも大麻への厳しい規制が脱法ハーブを生み出したという見方です。2007年ごろ、市場に登場した当初の脱法ハーブは、比較的穏やかな性質のドラッグでしたが、規制を逃れるために化学構造の変化を繰り返すうちに危険性が増し、最終的にモンスタードラッグへと変貌していきました。そして、使用者による事故などの問題が発生したのです。

脱法ハーブのブームが終焉したのは、ユーザーが刑罰を恐れたからというよりも、脱法ハーブが危険なものになり過ぎたために、より安全な大麻をはじめとする別の物質へと移行していった結果と考えることもできます」

正高医師は研修医として働いていた2012年当時、実際に、脱法ハーブなどを吸引し、痙攣を起こすなどして救急搬送された人をみてきた。また、実際に脱法ハーブを使っていた複数の人たちから「最初のころは問題なく使っていたのに、何年かしたら中身が変わっていた。同じものを使っているはずなのに、意識が飛ぶようになった」「最後のほうの脱法ハーブはヤバかった」などの話を聞いたこともある。

さらに、医療現場では、脱法ハーブは使わなくなったものの、睡眠薬や咳止め薬、大麻などの薬物を使ったり、自死したりするなどの別の問題が起きているという。

「規制を進めたことで、薬物問題が解決したわけではありません。形を変えて、別の問題が出てきているという現状についても目を向ける必要があるでしょう」

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