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カースト上位に認められ「盗撮」繰り返す…10代にも広がる性依存症、再犯防止の取り組み
斉藤章佳さん(1月25日、大船榎本クリニック、弁護士ドットコム撮影)

カースト上位に認められ「盗撮」繰り返す…10代にも広がる性依存症、再犯防止の取り組み

性的な欲求や衝動をコントロールできず、逸脱した強迫的性行動がやめられなくなる病気の一種「性依存症」。痴漢、盗撮、強制わいせつなど、「犯罪」としてあらわれるケースも少なくない。

これまで2000人以上の性依存症者に向き合ってきた精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんによると、最近では、自覚せずに「加害者」となってしまった10代の受診も増えてきているという。

どうして彼らは「犯罪」に至ったのか。そしてどう変わっていくことができるのか。斉藤さんに聞いた。

●「加害行為」の自覚がない子どもたち

斉藤さんは、依存症治療の傍ら、性犯罪やDVなどの加害行為を繰り返してきた人の治療教育に関わる「加害者臨床」をおこなっている。

加害者臨床において欠かせないのは「加害行為をしてきた責任をどう取っていくか、という従来の依存症臨床になかった視点である」と斉藤さんは強調する。しかし、10代で性暴力をおこなう少年は、そもそも「加害行為」をしている自覚がない場合もあるという。

「強制わいせつなどの性犯罪をした10代の少年からは『こんな大ごとになると思わなかった』『性的同意ということばを初めて知った』と聞くことがあります。YouTubeなどで『嫌よも嫌よも好きのうち(No means Yes)』などとすでに学習しているケースもみられます」

性犯罪には、大きく分けて、「接触型」と「非接触型」の犯罪がある。斉藤さんが働くクリニックでは、強制わいせつなどの「接触型」だけでなく、盗撮などの「非接触型」の性犯罪を繰り返す中高生の受診も増えているという。その中でも、スマホでの盗撮で逮捕され、受診するケースが目立つ。

「いわゆるスクールカーストの上位層にいる同級生男子グループに認められたことをきっかけに、盗撮をやめられなくなった男子高校生がいました。彼自身は、カースト内ではどちらかというと下層にいて、目立たないタイプです。

きっかけは、上位層の男子に『隣のクラスにいる可愛い子の写真を遠くから撮ってほしい』と頼まれたことでした。

嫌々ながら撮影し、その写真をLINEグループで共有したところ、『すげえ』『勇気ある』と賞賛され、ホモソーシャルな集団内での承認欲求が満たされたようです。徐々に『もっとキワどいのを頼む』などと要求がエスカレートし、写真を撮影してはLINEで共有し、賞賛を浴びていました。

もっと賞賛されたい思いで、学内のみにとどまらず、駅のホームで撮影するようになり、警察に逮捕されました。スマホには、盗撮した写真データが数千枚あったと聞いています。彼は盗撮したことで『男として認められた感じがした』と話していました」

男子高校生は逮捕されたことをきっかけに、クリニックを受診したという(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA) 男子高校生は逮捕されたことをきっかけに、クリニックを受診したという(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

法制審議会では、盗撮などを対象にした「撮影罪」新設の是非について議論が進んでいる。また、衣服の上から撮影した場合も迷惑防止条例違反にあたるとした裁判例も出てきている。「気軽な気持ち」で撮影した子どもが「加害者」になることもありうるということだ。

斉藤さんは「子どもにスマホを持たせる際には、親が『無断で人を撮影することがいかに暴力的なことなのか、写真を拡散された人はどんな気持ちになるのか』などをネットリテラシー教育の一環として説明すべき」だと話す。

●欠落した「被害者」に対する想像力

性暴力は、被害者のその後の人生に大きな影響を及ぼし、人間の尊厳を破壊する行為だ。性暴力に遭うという「一次被害」だけではなく、PTSDなどの重大な「後遺症」を抱えてしまうなどの「二次被害」に苦しむ被害者もいる。

しかし、子どもだけではなく、大人にもそのような実情は知られていない。特に、盗撮については「被害者の心情を想像しづらい」と斉藤さんは指摘する。

「盗撮の被害者は、電車内でスマホを持っている男性を見て『この人たちもみんな盗撮するのかもしれない』と不安になったり、大好きだったスカートが履けなくなったり、トイレが怖くて行けなくなったりするなど、当たり前の生活の安全が脅かされてしまいます。

写真を拡散された被害者の中には、ネットにアクセスできなくなったり、外で知り合いに会うことが怖くなり、自宅に引きこもったりしてしまう方もいました。

これまでにクリニックを訪れた盗撮加害者は500人を超えますが、全員男性でした。男性は日常生活において『盗撮されるかもしれない』という恐怖心を持つことがほとんどありません。つまり、日常的に性の対象として消費されるという経験をしたことがないといえます。そのため、被害者がどのような生きづらさを感じながら社会で生きているのかを想像しにくいといえます」

斉藤章佳さん(1月25日、大船榎本クリニック、弁護士ドットコム撮影) 斉藤章佳さん(1月25日、大船榎本クリニック、弁護士ドットコム撮影)

斉藤さんが勤務するクリニックでは、2017年から、盗撮に限らず、性犯罪被害者と加害者との『修復的対話プログラム』を日本で初めて実施している。

「被害者側から『自身の被害回復のために、加害者と対話したい』という要請があった場合に、積極的にそれに応じていくのが加害者臨床の役割だと考えています。被害者臨床と加害者臨床は車の両輪ですが、加害者臨床側から被害者側に『彼らのために話をしてほしい』と依頼することはありません。

本来、加害者の加害行為の克服は、被害者の回復を促進する方向で進めていくものです。加害者は被害者とは非対等です。そのため、被害者に問題解決のための負担を求めない方針をとります」

●「出所したら再犯する」刑事施設を出たくない人も…

新たな被害者を生まないためには、再犯防止のための取り組みも必要となる。

刑事施設内でも、性犯罪者に対して「性犯罪再犯防止指導(R3)」がおこなわれているが、全員が受けられるわけではなく、プログラムを受けたとしても出所後再犯しないとは限らない。中には「出所したら再犯する」と宣言する受刑者までいるという。

斉藤さんは、刑事施設側の依頼を受けて、「再犯宣言」をする男性と面談したことがある。男性は「逮捕されたら、ゲームオーバー」などとゲーム感覚で強制性交を繰り返し、刑事施設を出たり入ったりしていた。出所後は就職先がないため、自営業をしていたが、そこそこ能力が高いため、仕事はいつもそれなりにうまくいっていたという。

なぜ、あえて女性に重大な加害行為をおこない、何度も刑事施設に行く道を選んでしまうのか。

「男性の最初の記憶は、幼少期に母乳を飲んでいるときに母親の乳首をかんでしまい、母親に顔面を殴られ続けるというものでした。かなりひどい虐待を受けており、殴るときの母親は無表情だったようです。彼は、性的快楽を得たいがためにレイプするというよりも『女性が死を受け入れたときの表情を見る』ことにこの上ないエクスタシーを感じていました」

男性は、斉藤さんに「出所後も治療には行かないが、気づいたことがある。女性が死を受け入れたときの表情は、俺を殴っているときの母親と同じだった」と話したという。

斉藤さんは、面談などのため、拘置所や刑務所に足を運ぶことも少なくない(ABC / PIXTA) 斉藤さんは、面談などのため、拘置所や刑務所に足を運ぶことも少なくない(ABC / PIXTA)

「ほかにも、『出所したら、絶対にまた性犯罪をやってしまうから、刑事施設を出たくない』と話す人もいます。しかし、その要望にこたえる術はありません。

日本の刑事司法は、性犯罪に限らず、犯罪を重ねれば重ねるほど、出所後の立ち直りが困難になります。大切な人とのつながりや居場所、希望がなくなっていくので、孤立化し、再犯のリスクは高まります」

クリニックには、小児性愛障害(ペドフィリア)専門の治療グループがある。彼らのための正直な体験談や自らの問題を分かち合える「居場所」を準備したのは、もっとも再犯のリスクが高いと考えられるためだ。

「刑事施設内にもヒエラルキーがあり、性犯罪者は最下層(上層は暴力団や殺人犯)に位置づけられています。さらに、性犯罪者の中でも盗撮、痴漢などが上位で、子どもへの性加害者は下位におかれています。

つまり、世界中で最も排除されやすいのは、ペドフィリアの人たちといえます。社会の中に居場所がなければ、今までしてきたことを誰とも共有できず、リスクが高まっても相談できず孤立化し、社会の中に居場所を失い、やがて再犯に至る当事者を何人も見てきました」

もちろん「性依存症」という病気だからといって、加害行為は「なかった」ことにはならない。

「クリニックには、取り返しのつかないことをした人たちがたくさん訪れます。私たちは、彼らのやってきたことは否定しながらも、行動変容のための専門的なアプローチをおこないます。

治療の中で『謝罪』や『加害行為に責任を取ること』を扱うことで、彼らに『加害者として責任を背負いながら、どう生きるのか』に向き合い続けることができるような関わりを日々の臨床の中で実践しています。

『加害者にとって最大限の謝罪は、被害者にとって最小限の謝罪である』

繰り返しになりますが、加害者臨床が前提とする視点は『加害行為は許されない』ということです。それでも、彼らが変わろうとする際の痛みは尊重したいと思っています」

【斉藤章佳さんプロフィール】 精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック(=神奈川県鎌倉市)精神保健福祉部長。榎本クリニックにて、20年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・クレプトマニア(窃盗症)などさまざまな依存症問題に携わる。代表作に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)があり、台湾・韓国などで翻訳本が出ている。その他には、『万引き依存症』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』(幻冬舎)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)など依存症に関する著書多数。大人気漫画『セックス依存症になりました』(津島隆太作)の監修もつとめる。

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