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ネット中傷、面識のない加害者は「子どももいて、旦那の稼ぎも少ないし」慰謝料を拒否
(Graphs / PIXTA)

ネット中傷、面識のない加害者は「子どももいて、旦那の稼ぎも少ないし」慰謝料を拒否

「行きすぎた誹謗中傷は起訴されること、警察が誹謗中傷問題に対し消極的で被害者を無下に扱うことを社会問題として取り扱ってほしいです」。情報提供を受け付けている弁護士ドットコムニュースのLINEに、こんなメッセージが届いた。

送り主は、関西地方に住む宮野さん(仮名・20代女性)。SNSやインターネット掲示板で誹謗中傷に遭い、自力で開示請求をおこなった。

しかし、情報が開示されて一件落着とはならなかった。警察にはなかなか被害届を受理してもらえず、加害者とのやりとりは何度も途絶えた。

記事の前編では、突然誹謗中傷がはじまり、警察に何度も足を運ぶも相手にしてもらえなかったエピソードを紹介した。後編では、加害者とのやりとりや現在厳罰化が検討されている侮辱罪について思うことを尋ねた。(編集部・出口絢)

●「会ったこともないのに、突然すみませんでした」

ようやく警察が取り合ってくれた頃、加害者Aからも「爆サイからスレッドが削除された月から、もし削除が遅くなる場合は2021年1月から、慰謝料を支払う」と連絡があった。2021年1月にようやくスレッドの削除がされたが、慰謝料の支払いは開始されなかった。

そこで2021年3月、宮野さんはAを相手に、慰謝料や開示請求費用など150万円の支払いを求める損害賠償を求めて提訴した。大阪地方裁判所は4月、「氏名でスレッドをたて、継続的に事実ではない内容を投稿し、社会的評価を下げて名誉毀損した」などとしてAに対し150万円の支払いを命じた。

画像タイトル 大阪地方裁判所(LOCO / PIXTA)

Aは5月18日、名誉毀損の罪で甲府地方検察庁にて略式起訴され、罰金20万円の略式命令を受けた。アカウント乗っ取りなど不正アクセス禁止法違反の罪についても、Aは全て認めていたが、ログが残っておらず証拠不十分で不起訴となった。

その後、「謝りたいと言っている」と検察を通じてAから連絡があった。

「会ったこともないのに、突然すみませんでした」。電話でそう謝罪したAは「仕事見つけるのに時間がかかるから」、「子どももいて、旦那の稼ぎも少ないし、本当に貯金もないので支払いができない」と8月から1万円ずつ慰謝料などの支払いを始めたいと話した。

宮野さんはAに「判決にて利息も遅延損害金も認められた。裁判費用も全額被告負担と判決が出ているため裁判費用も請求させてもらいますが、150カ月も払い続けるのですか」と尋ねたが、「自分にはそれしかできない」と言われた。

「私も早くこの件を忘れたいので、もう少し増額して、支払い期間を短くしてくれませんか」と返すと、Aの夫が電話口に出てきて「あなたの普通と僕たちの普通は違うんです。僕の稼ぎも少ない中、子供にお金もかかるのに慰謝料払うだけまともだろう」と逆上してきたという。

「本当に反省しているのか。また同じような嫌がらせをされるのでないか」。今後、慰謝料がしっかりと支払われるのかも不安になった。

Aは「刑事事件の罰金も払わないといけないから」とコンビニでバイトを始めたというが、「全額慰謝料にあてられないから、刑事事件の罰金と車のローンを払いながら、進めさせてください」と話し、現在宮野さんに対し月1万円ずつ支払いをしている。

●警察が告訴を断る5つのパターン

誹謗中傷という言葉が広く知られ社会問題ともなっているが、宮野さんのように警察に邪険にされるケースは後を絶たない。

これは、たとえ相手が弁護士であっても同じような状況だという。ネット上の誹謗中傷問題にくわしい田中一哉弁護士は「警察から『告訴を諦めさせよう』という対応をされることは毎回です」と話す。

田中弁護士が経験したケースでは、警察が断る理由は以下の5つのパターンに分類できるという。

1、「なぜ、うちに出すのか?」と管轄違いを指摘する
2、該当しているのに「構成要件に該当しない」と拒む
3、そんな決まりはないのに「郵送での告訴は受け付けていない」と拒む
4、原本を返されたら告訴状を提出した証拠が残らないのに「コピーを取ったから、告訴状原本は返します」という
5、「被告訴人とよく話し合いなさい」「被告訴人が示談を希望しているのになぜ受け入れないのか」と拒む

一方、民事訴訟を提起しても全く対応しなかった被告が、警察から呼び出しがかかった途端示談を求めてきた例は「少なくない」そうだ。

「警察がもっとちゃんと動いてくれていたら、死ななくて済んだ被害者というのもきっといたと思いますし、これから出る悲劇も防げると思います。被害者は最後の寄る辺として勇気を振り絞って警察を頼っていますし、やはり警察にしか出来ない仕事というのはあるわけですから、誠実な対応を求めたいです」(田中弁護士)

●侮辱罪の厳罰化で被害者は救われるのか?

現在、侮辱罪は厳罰化することが検討されている。法制審議会は10月21日、法定刑に「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を加え、公訴時効も現行の1年から3年に延長する改正案を法務大臣に答申した。ただ、警察が捜査しない限り、被害者は救われない。

宮野さんは「侮辱罪が厳罰化されたとしても、警察が対応してくれるかどうかが疑問だ」と話す。

「弁護士を雇うお金がある人や、何かしらの権力があり警察を動かすことができる人じゃないと、行き過ぎた誹謗中傷に遭っても、泣き寝入りする、もしくは途中でくじけて諦めてしまうと思う。

私は自分で開示請求をして刑事告訴までしたが、発信者が判明してもなお、警察は対応してくれないばかりか邪険に扱われ、途中で何度も諦めそうになった。侮辱罪が厳罰化されようとも、結局は警察が対応しないなら現状と何も変わらず、行き過ぎた誹謗中傷は減らないのではないか」

「法改正によって時効が延びても、発信者の特定手続きが簡素化され特定できても、今回のように警察が対応してくれなければ時効は来ますし何も変わりません。警察が警察としてまっとうな対応をしてくれることを願います」

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