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公共の場での「授乳」に賛否の声、法律で認めるべきか「ママ弁護士」に聞いた
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公共の場での「授乳」に賛否の声、法律で認めるべきか「ママ弁護士」に聞いた

「店内でいきなり授乳に戸惑う」ーー。朝日新聞の読者投稿コーナー(1月11日)に掲載された記事を発端に、公共の場での授乳についてネットで議論が起きた。

投稿は、ショッピングセンター内の飲食店で働く、20代前半のアルバイト店員のもの。乳幼児や小さな子どもを連れて来店した母親が、店内で授乳することが多く、困惑しているという。投稿者は、ケープなどで隠していても、目のやり場がなく、近くにある授乳室などを利用してほしいと訴えている。

ネットでは、子育て経験があると見られる女性からも「同性から見ても気まずい」「マナー違反」と同意する声があがっている。一方で「授乳室はどこにでもあるわけではない」「子どもが2人以上いたら、すぐには授乳室にいけない」といった反対意見もあった。

発端となった朝日新聞は1月26日、公共の場での授乳が法律で認められている国や地域があることを紹介。たとえば、台湾では公共の場での授乳を禁止・妨害すると、約2万~11万円の罰金が科せられるそうだ。アメリカでも49州で、公共の場での授乳が保護されているという。

公共の場での授乳について、法的なリスクの有無や法律で保護すべきか、2児の母でもある浮田美穂弁護士に聞いた。

●「泣き声で周囲に迷惑をかけるのは大変心苦しい」

そもそも、授乳室などではなく、公共の場で授乳することには、どういう事情があるのだろうか。浮田弁護士は次のように説明する。

「出かけ先で授乳をしたいという需要は当然あります。外出前に授乳を済ませておけばいいではないかという意見がありますが、赤ちゃんの授乳の時間と外出の時間があわないこともあります。

また、赤ちゃんと四六時中一緒だと母親もストレスが溜まります。外出は気分転換になりますので、ゆっくりと外出したい時もあるのです。

赤ちゃんが突然泣き出した場合、授乳すればすぐに静かにさせることができます。外でミルクを作るというのはなかなか難しいので、すぐに泣き止ませるには授乳が手っ取り早いのです。お母さんとしては、泣き声で周囲に迷惑をかけるのは大変心苦しいので、とにかく泣き止ませたいということで授乳をするのだと思います」

子どもが泣き出しても、泣き止ませるために授乳しても苦情が出る。もちろん解決策は授乳だけではないのだろうが、お母さんたちに求められるハードルは高い。

●公共の場での授乳に法的リスクは?

公共の場での授乳がここまで議論を呼ぶ理由の1つは、女性が胸を出さなくてはならないからだろう。この点について、法的な問題点はないのか。

「ケープや授乳服(授乳用に作られた服)を着用して授乳している方が大半ですから、その場合は周りの人に胸が見られるということはありません。

ケープや授乳服を着用していない場合は、服によっては胸が見えることはあるかもしれません。軽犯罪法1条20号には『公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者』は、拘留または科料に処するという規定があります。

しかし、一般的には嫌悪感を抱くとまでは言えないでしょうし、やむを得ずしている場合は『みだりに』とも言えません。また、授乳は『性欲を刺激興奮させたり満足させたりする行為』ではありませんので、公然わいせつ罪にもなりません。

逆の立場では、授乳の現場に居合わせしまうことがあるかもしれませんが、偶然授乳の様子を見てしまったとしても罪に問われることはありません」

法的な問題がないのであれば、感情やマナーの問題になると考えられるだろう。

「ケープや授乳服は、外出先でも授乳できるようにと作られたものです。もちろん、一定のマナーはあるのでしょうが、ケープや授乳服で授乳する場合でも授乳室を利用すべきというのは行き過ぎではないでしょうか。周囲も温かい目で接してもらえればと思います」

●法律で公共の場での授乳を保護すべきか?

海外では、法的に公共の場での授乳の権利を認めている国もあるようだが、日本もそうした法律を定めるべきなのだろうか。

「公共の場で授乳する権利を認めて保護するという考え方ですね。私自身は、そのような法律を日本で作る必要性を感じたことはありませんが、公共の場で授乳していると白い眼で見られるような風潮になった場合には、必要になってくるかも知れません。

でも、法律で保護しないと守ってもらえないような社会になるのは何だか寂しい気がします」

浮田弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

浮田 美穂
浮田 美穂(うきた みほ)弁護士 弁護士法人兼六法律事務所
2002年、弁護士登録。2010年度金沢弁護士会副会長。著書に 「ママ弁護士の子どもを守る相談室」(2013年、一万年堂出版)。

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