ショッピングセンターで万引きをした69歳の男性が、追いかけてきた警備員に投げつけたのは、なんと大便だった。愛知県警は9月上旬、この男性を事後強盗の疑いで現行犯逮捕した。男性は「びっくりして大便をもらしてしまった。万引きはしたが、大便を投げつけてはいない」と容疑を一部否認したという。
報道によると、男性はローストポーク2点(1960円)を盗んだが、警備員に見つかったため逃走した。建物から出たものの、駐輪場で肩をつかまれた。その際、逃げようとして自分の大便を投げつけた疑いがもたれている。
思わず脱力してしまうニュースだが、なぜ今回は「事後強盗罪」の疑いになったのだろうか。泥棒が逃げようとしただけ、とはいえないのか。鈴木淳也弁護士に聞いた。
●大便を投げつける行為は、暴行になる?
「事後強盗罪(刑法238条)とは、窃盗した者が、暴行・脅迫を加えた場合に成立する犯罪です。ふつうの強盗罪とは、暴行・脅迫の順番が異なるのが特徴です。
もう一つ、事後強盗の場合、暴行・脅迫について、(1)物を取り返されることを防ぐ(2)逮捕を免れる(3)犯罪の痕跡を隠滅するという『目的』が求められるという点に特徴があります」
鈴木弁護士はこのように述べる。今回のケースはどう考えればいいだろう。
「本件では、男性がローストポークを盗んだ後に、警備員がこの男性を捕まえようと追いかけてきたところで、大便を投げつけています。
このことからすると、逮捕を免れる目的で大便を投げつけたと考えられます。そのため、警察は、事後強盗罪の疑いで逮捕したのでしょう」
●事後強盗罪で起訴される可能性は低い?
大便を投げつけることは、暴行や脅迫にあたるのだろうか。
「大便を人に投げつける行為は、人の身体に対する有形力の行使(直接的に殴る・蹴るといった暴力を用いること)として、刑法208条の暴行罪に該当します。
ですが、強盗罪の『暴行』の意味は、暴行罪の『暴行』よりも限定的な意味で考えられています。具体的には、人の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であることが求められます。
たとえば、刃物や凶器を突きつける行為は、相手の反抗を抑圧するに足りる暴行といえるでしょう。
しかし、大便を投げつける行為は、相手の『万引き犯を捕まえてやろう』という意思を抑圧するほどの暴行と評価するのは難しいと思います。ですから、今回のケースで、検察が事後強盗罪で起訴する可能性は低いのではないでしょうか」
他の罪にあたる可能性はないのだろうか。
「そもそも、街路や公衆の集合する場所で大小便をする行為は、軽犯罪法1条26号に該当します。
また、他人に汚物を衣服にかけられた場合、そのような衣服は着ることが難しくなり、物の効用を害したといえるので、器物損壊罪(刑法第261条)にも該当しうるでしょう。
過去の裁判でも、食器に放尿した行為、自動車のドアハンドルの内側に人糞を塗り付けた行為について、器物損壊罪の成立が認められています」