大麻取締法違反(所持)の罪に問われていた末期がん患者、山本正光さん(58)が7月25日、肝臓がんのために死去した。山本さんは「大麻はがん治療に有効で、苦痛も和らげる。治療のためだった」と無罪を主張していた。次回公判は8月2日に論告求刑と最終弁論がおこなわれる予定だったが、被告人死亡によって公訴棄却となる。
山本さんの裁判を支援していたNPO法人「医療大麻を考える会」の長吉秀夫さんは26日夜、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「本人が判決を見届けられず、とても無念だが、最後までよくがんばってくれた」と言葉をつまらせた。7月23日ごろから容体が急変したが、意識のある最後まで、裁判をたたかう意思を示していたという。
山本さんは横浜市内のレストランで料理長をつとめていた。2000年に肝臓がんがみつかり、2014年には「余命6カ月」の宣告を受けた。2015年3月から、それまで効果がなかった抗がん剤にかわって、自宅で大麻を栽培・使用して、治療にかけた。その結果、食欲や睡眠がとれるようになり、腫瘍マーカーなどの数値も改善されたという。
2015年12月、山本さんは大麻所持の疑いで逮捕された。亡くなる直前までは、医療用の麻薬系鎮痛剤を使った緩和ケアをおこなっていた。だが、最近は腹水がたまるペースが早くなるなど、入退院をくりかえしていた。
7月12日に開かれた公判で、山本さんは車いすに乗って出廷した。検察官の質問に「ほかに治療方法がなかった」「大麻を治療に使えるようにしてほしい」としっかりとした口調で、「生きたい」という意思を示した。報告集会では「もしかしたら次は法廷に立てないかもしれないが、くたばらないようにがんばります」という言葉もあった。
仕立ての良い紺色の上下スーツで出廷する姿が印象的で、弁護士ドットコムニュース記者が一度たずねたところ、山本さんは「裁判官は法衣を着ている。俺もきちんとした服装で裁判にのぞみたい。常識がない人だと思われるのは嫌なんでね」とやさしく笑いながら話していた。