もし家族の誰かが犯罪に手を染めたら――。北海道南幌町で高校2年の女子生徒が祖母と母親を殺害したとされる事件で、女子生徒は、凶器の包丁を「姉の運転する車で捨てに行った」と供述していると、10月初旬に報じられた。
報道によると、女子生徒の供述通り、犯行現場の自宅から5キロほど離れた公園で、包丁が発見されたという。仮に、女子生徒の姉が、凶器を捨てるのを手伝うために車を運転したのだとしたら、姉は凶器を隠すことを「手伝った」ということになる。
一般論として、犯罪の証拠を隠すことや、それを手伝うことはよくないことだろう。しかし、家族をかばいたくなる気持ちはわかる。もし万が一、家族が犯罪に関わったとき、その「証拠隠し」を手伝えば、自分も罪に問われてしまうのだろうか。刑事事件にくわしい神尾尊礼弁護士に聞いた。
●「証拠隠滅罪」という犯罪がある
「犯罪の証拠を隠すことは、犯罪の捜査や裁判を誤らせるおそれがある行為です。そこで、そうした行為は、証拠隠滅罪(刑法104条)として処罰されています。
しかし、ここでいう証拠とは、『他人の』犯罪に関する証拠に限られます。
たとえば、仮に他人を殺傷した女子生徒が、自分自身で凶器を捨てたのであれば、証拠隠滅罪にはなりません」
なぜ、自分の犯罪に関する証拠を隠しても、罪にならないのだろうか。
「自分の犯罪に関する証拠を隠そうとすることは、人間の普通の感情として仕方がないことだと考えられているからです。
しかし、『他人の』犯罪に関する証拠は、『捨ててしまうのは仕方がない』なんて言えませんから、証拠隠滅罪として処罰されるのです」
●家族は「他人」なのか?
それでは、その他人が「家族」ならどうなるだろうか?
「他人のようで他人とは言い切れないような存在、たとえば『家族』だったら、自分と同じように考えてしまうときもあるでしょう。
もし、自分の子どもが犯罪に関わっていると知ったら、お母さんはその証拠を捨ててしまうかもしれません。
刑法105条は、こうした人間の普通の感情を考慮し、『親族』が証拠を隠したり、壊したりした場合、『その刑を免除することができる』と定めています。
今回の事件で、女子生徒の姉は『親族』にあたりますから、この規定が適用される可能性があります」
免除というのは、無罪とは違うのだろうか。
「『刑の免除』というのは難しい概念ですが、要は『有罪だけれど刑罰を受けなくてよい』ということです」
このように解説したうえで、神尾弁護士は「もっとも、実際上、刑の免除の規定が適用されることはまれです。こうしたケースでは、起訴にまで至らず、裁判にならないことがほとんどだからです」と、つけ加えていた。