久々に掃除をしようと本棚を整理していたら「10年前に図書館で借りた本」が出てきたーー。東京都内のIT企業で働くユキさん(28)は、「実は、借りっぱなしだったその本を捨ててしまいました」と告白した。
ある日、ユキさんが本棚を整理していると、古びた1冊の本が目にとまった。よく見ると、それはユキさんが高校生だった頃、学校の図書館から借りた本。「一瞬、あちゃー、返さないとと思ったんですが...。借りてからもう10年も経ってるし時効だろうと思って、他の本と一緒に捨ててしまいました。要は、返すのが面倒だっただけです」。
図書館の本を10年も延滞したうえ、返却せずに捨ててしまったユキさんの行為には、どのような法的問題があるのか。小野智彦弁護士に聞いた。
●理屈の上では「横領罪」になり得る
図書館で借りた本を返さない問題が起きる根底には、やはり無償での貸し出しという要因があるのでしょう。レンタルビデオの場合は、有償での貸し出しのうえ、高額な延滞金ということで、相当な心理的圧迫を感じますが、図書館の本はそういう圧迫がありません。
図書館の本を返さないことは、理屈の上では、横領罪になり得ます。返還期限を過ぎたくらいでは横領罪にはなりませんが、「もう返すのが面倒だ。返すのをやめよう」とか、「返還の催促がうざい。着信拒否にしてしまおう」など、図書館から預かった本を、あたかも自分の物であるかのように振る舞っていると解釈されれば、横領罪が成立しうるでしょう。
ユキさんのケースでは、借りていた本の所有権は図書館が持っています。債権は10年の消滅時効にかかりますが、所有権のような物権は、消滅時効にかかりません。したがって、10年経っているからといって、所有権がユキさんに移ることはありませんので、やはり横領の問題にはなり得るでしょう。借りた本を捨てることも、古本屋に売却することも、所有権者でなければ本来できない行為ですので、同様に、横領の問題になる可能性があります。
しかし、図書館が横領罪として被害届けを出したとしても、基本的には警察は動かないでしょう。
国宝級の高価な本であれば捜査するでしょうが、そのような本は、基本的に貸し出し禁止になっていますね。図書館で貸し出されている本はおおむね安価で、返さない人も多数いるでしょう。いちいち事件化していたら、他の事件が停滞してしまいます。
図書館としても、民事で裁判を起こしてまで返還請求をすることはないと思います。この問題は永遠に繰り返されそうですから、電子化することで対策をするしかなさそうですね。