セーラー服やスクール水着などを着た若い女性の姿をマジックミラー越しに見せる「見学店」の経営者男性(52)が、「興行場法」違反の疑いで警視庁に逮捕された。見学店が同法違反の疑いで摘発されるのは、全国初という。
報道によると、男性は、秋葉原の「見学店」を無許可で経営していた疑いで、9月9日までに逮捕された。摘発された当時、個室に入った男性客3人が女性7人のパフォーマンスを見ていた。女性は全員「成人」だったという。
千代田保健所は警察からの情報提供を受けて、今年5月、秋葉原の見学店に一斉立ち入り調査を実施。7店舗について「興行場にあたる」と判断し、許可を取るように指導した。その後、6つの施設は廃業するか、業態転換したが、今回摘発を受けた店舗は、指導後も無許可で営業を続けていた。
●今回の摘発の背景には「JKビジネス」がある?
興行場法は、戦後まもなく制定された古い法律だが、これまではあまりニュースで話題になることもなかった。どんな法律なのだろうか。
興行場とは、映画館や劇場など「興行」を行う施設のことだ。条文を見ると、映画館や劇場などの施設について「公衆衛生」の見地から規制する法律ということがわかる。興行場の営業には「都道府県知事の許可」が必要で、興行場はトイレの整備や換気、照明、防湿などの義務を課されることになっている。
今回は、若い女性の姿をマジックミラー越しに見せる施設が「興行場」にあたるにもかかわらず、「許可を取らずに営業した」という容疑で経営者が逮捕されたわけだが、なぜ、いまごろになって「興行場法」が問題になったのだろう。
新聞の報道によれば、見学店摘発の背景には「JKビジネス」をめぐる警察と業者の攻防があったようだ。わいせつ事件に詳しい奥村徹弁護士は、次のように分析する。
「今回の店で働いていたのは成人女性だったようですが、警察としては、見学店が『児童買春の温床になる』と考え、類似の業態まで一掃しようとしているのでしょう。
もし、店で未成年が働いているところを押さえることができれば、児童福祉法違反や労働基準法違反などで摘発できます。しかし、働いているのが成人だと摘発が難しい。今回は、なんとか適用できる法律を探して、見つかったのが興行場法だったのだと思います。
興行場法違反だとすれば店内が清潔であれば違法性は薄いことになるし、JKの格好をした成人を見学する店まで『児童買春の温床』だというのは、的外れでしょう」
●見学店は「興行場」なのか?
そもそも、客がせいぜい数人の「見学店」と、何百人という観客を集める映画館や劇場は、その性格が異なるようにも思える。規模が小さくても、興行場法の対象になるのだろうか。
指導を行った千代田保健所によると、1982年に厚生省が出した通知で、見学店に近い業態の店を「興行場だ」としているものがあったという(昭和57年1月14日環指第3号)。
当時問題とされたのは、「水着姿の女性をスケッチさせるアトリエ」という触れ込みで、不特定多数の客に対して、鉛筆・スケッチブックを渡して個室に入れ、マジックミラー越しにステージ上の女性の着替えや入浴を見せる、という業態だった。厚生省は、こうした店を「興業場にあたる」と判断しているのだ。
千代田保健所は、この通知などに基づいて、「見学クラブは興行場にあたる」と判断し、指導を行ったという。だが、指導を受けたあと、許可を申請した店はなかった。なぜ、許可を申請しなかったのか。千代田保健所の担当者は次のように語る。
「興行場として許可を取るには、トイレなど、一定の設備基準をクリアする必要があります。他にも建築基準法や消防法上の基準もクリアしないといけません。建物は新しいビルではなく、そうしたさまざまな基準をクリアできないと、業者は判断したのではないでしょうか」
つまり、興行の内容ではなく、建物の問題が大きかったといえる。逆にいうと、建物の設備が基準をクリアさえしていれば、許可を取って、興行場法に沿った形で「見学店」を経営することもできるわけだ。つまり、児童売春問題への対処としては、興行場法での摘発は「一時しのぎに過ぎない」ということになりそうだ。