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強姦罪を「強制性交等罪」に名称変更方針、明治40年以来初…どんな影響がある?
法務省

強姦罪を「強制性交等罪」に名称変更方針、明治40年以来初…どんな影響がある?

性犯罪に適用される「強姦罪」の名称を、「強制性交等罪」に変更する方針を法務省が固めたことが報じられた。

報道によると、「強制性交等罪」では、被害者を「女性」に限っていた性別による区別をなくす。また、これまでは、被害者が告訴しないと起訴できない「親告罪」だったが、告訴なしで起訴できる「非親告罪」に改める。法定刑は「懲役3年以上」から「懲役5年以上」に引き上げるという。

実現すれば、明治40年に制定されて以降はじめて、強姦罪が抜本的に見直されることになる。どんな影響があるのか、刑事事件に詳しい小笠原基也弁護士に聞いた。

●国民の「行動予測可能性」担保できるのか?

これまでも、刑法の罪名が変更されたケースはありますが、今回検討されている改正は単なる名称変更とは異なります。

これまでの強姦罪の構成要件(罪となる行為)は、男性による強制的な性交でした。「強制性交等罪」は、これに、強制的な肛門・口腔による性交類似行為という、もともとは、強制わいせつ罪に当たる行為を加えて、同じ刑として処罰しようとしたものです。

これまでの「強姦罪」や、マスメディアなどで使用される「婦女暴行罪」に比べて、罪名を聞いただけではどんな事件かが分かりづらいということが考えられます。

報道される際などは、それぞれ違う罪名が通称として付けられる可能性も考えられます。一般的に「強制性交等罪」という罪名は使われないか、浸透するとしても時間がかかるのではないでしょうか。

刑罰を定めた条文には、国民にとってのわかりやすさ、つまり、「何が許される行為で何が許されない行為か」「どのような行為がどれだけの罪となるのか」を予測できるようにして、国民の行動の自由を守る「行動予測可能性」が求められます。

今後、具体的に条文が検討されると思われますが、こうした観点からすれば、従来の強姦と、新たに加わる強制的な性交類似行為については、刑の重さは同じにするとしても、別個の条項で定めて、罪名も別々にした方がよいのではないかと思います。その上で、本当に双方の刑の下限を5年に引き上げる必要があるかどうかについて、慎重な審議を行うことが望まれます。

●これまでもあった「罪名の変更」

ちなみに、これまでに罪名が変更されたものとしては、刑法が口語化された際に、古い言葉を現在の言葉に直したということがあります。

たとえば、「賍物牙保(ぞうぶつがほ)罪」が「盗品有償処分あっせん罪」に、「誣告(ぶこく)罪」が「虚偽告訴等罪」にという具合です。

これらは、もとの罪名がそもそも社会で使われていないこと、犯罪行為の内容としては変わっていないことから、変更された名称は社会が受け入れやすかったと思います。

また、「業務上過失致死傷罪」から、自動車運転だけが重く処罰されるという改正の際に「自動車運転過失致死傷罪」が制定され、それが刑法から「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に移りました。

その際、「自動車運転過失致死傷罪」は「過失運転致死傷罪」に変更されていますが、こちらも内容的には変わっていませんし、罪名自体もほとんど変わっていないので、罪名が変わったこと自体気づかれていない人も多いのではないでしょうか。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小笠原 基也
小笠原 基也(おがさわら もとや)弁護士 もりおか法律事務所
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員

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