電車の中で居眠りしていた女性をスマートフォンで無断撮影し、ツイッターに投稿したとして、北海道警は12月10日、札幌市の高校2年の女子生徒を、侮辱罪の疑いで書類送検したと発表した。女子生徒は「笑いのネタにしたかった」と認めているという。
報道によると、女子生徒は8月1日午後3時40分ごろ、札幌市内を走行していたJRの電車内で、居眠りしていた女性(16)を撮影し、「わらいとまんないしぬ」とのコメントとともに、ツイッターに投稿して、侮辱した疑いが持たれている。女性の母親が被害届を出していた。女性は顔に障害があり、女子生徒とは面識がなかったという。
ネットでの誹謗中傷は絶えることなく問題になっているが、今回は、なぜ侮辱罪が適用されることになったのか。ネットの誹謗中傷の問題に詳しい清水陽平弁護士に聞いた。
●社会的評価を下げたと判断された
「侮辱罪は、公然と人を侮辱した場合に成立します(刑法231条)。
どのような場合に侮辱罪が成立し得るかは、侮辱罪の保護法益を考える必要がありますが、実務上は外部的名誉(社会的評価)であると解されています。
つまり、侮辱罪の保護法益を名誉感情と考えると、個人が不快だと感じればこれが成立することになりますが、それだけではない成立しないというのが実務です」
では、今回のケースをどうみればいいのだろうか。
「今回、報道によると顔に障害のある方の写真だったようで、それを無断撮影し、『わらいとまんないしぬ』とのコメントが付されているとのことです。写真をインターネット上にアップすることで「公然と」という要件は当然に満たし、障害をあざ笑うかのような内容は人の社会的評価を下げるものと言えます」
なぜ「名誉毀損罪」ではなく「侮辱罪」が適用されたのか。
「名誉毀損罪と侮辱罪の違いは、前者が公然と『事実を摘示』する必要があるのに対し、後者はそれが不要であるという点です。
たとえば、『AさんはいつもBさんのお尻を触っている』というのは名誉毀損罪になりますが、『Aさんはいつもいやらしい』というのは侮辱罪になります。前者は『お尻を触っている』という事実を摘示していますが、後者は事実を説明する内容はなく、『いやらしい人だ』という意見や感想を指摘しているだけだからです。
今回のケースで検討してみると、写真を掲示することで写真に写っている事実を摘示していると見る余地もありますが、『わらいとまんない』とのコメントを付していることからすると、写真は、意見や感想をいうために投稿されていると判断できます。そのため、侮辱罪として立件されたものと思われます。
ただ、たとえば他人の裸の写真を掲載した場合は、名誉毀損になり得ます。そのことからすると、本件を名誉毀損として立件する余地もあったのではないかと思います。ただ、実際の侵害の程度が比較的軽微といえるため、侮辱罪として扱われたのではないでしょうか」
●ネット上のトラブルが一般に浸透してきた
ネットの投稿をめぐって侮辱罪が適用されるケースはあまり見かけないが、珍しいことなのか。
「警察は、本件のような事案については、これまで全くといっていいほど動いてくれなかったので、この報道には驚きました。インターネット上のトラブルがそれだけ一般に浸透してきたということが、一つの契機になっているのではないでしょうか。
なお、同じようなことをすれば、やはり侮辱罪や名誉毀損罪で立件される可能性もありますし、民事上、不法行為に基づく損害賠償請求などをされる余地もあります。
他人を勝手に撮影してネットにアップするということは、このようなリスクを伴うということを理解し、場合によっては、一時の話題集めのために人生を棒に振るかもしれないと意識することが必要でしょう」
清水弁護士はこのように話していた。