「ちりめんじゃこ」には、加工の際に、原材料となるイワシ類の他にも、小さなエビやタコなどが混ざっていることがある。「チリメンモンスター」などとも呼ばれ、一部で愛好する人もいるが、こうした「チリメンモンスター」が商品に混ざっていることを理由に返品要求する客がいた事に困惑する魚屋のツイートが話題となった。
ツイートによると、魚屋で販売していたちりめんじゃこには、「※本製品で使用しているいわしの稚魚は、えび、かに、いか、たこ、さばが混ざる漁法で採取しています」との注意書きがあった。それなのに、「こんなの初めて」と怒り、返品を要求してきた客がいたのだという。
このツイートには、「はいってたらむしろラッキーだと思うのに」「こういうのが美味しいのに…」と、客の反応を残念がる声があがっていた。気にせず食べてしまう人もいるようだが、店側は返品を断ることはできないのか前島申長弁護士に聞いた。
●「いわし類以外が入っているとわかっていれば買わなかった」という主張は通るのか?
「客側が返品を求める法律構成としては、民法上の錯誤無効と債務不履行解除が考えられます」
前島弁護士はこのように指摘する。それぞれどのような主張なのか。
「錯誤無効は、法律行為の要素に錯誤がある場合に法律行為を無効とするものです。
本件で返品を要求した客は、『この商品には、ちりめんじゃこの原料であるいわし類以外の生物が混入していない』と考えて購入しようとしたと考えられます。
こうした購入の『動機』の部分に錯誤がある場合、判例では相手方にその動機が表示される必要がありますが、一般的に『いわし類以外のえび、いかなどの魚介類が混入していないので購入します』と店側に明示する購入することは考えられないでしょう。
したがって、通常は、客側の錯誤無効の主張は認められないと思われます」
債務不履行解除はどうだろうか。
「債務不履行解除というのは、ざっくりといえば、契約の当事者の一方が、契約にもとづいて果たすべき義務を果たしていないことを理由に、もう一方の当事者が『契約をなかったことにしましょう』という意思表示です。
今回のケースで言えば、売り主には、『異物が全く入っていない商品を売買の目的としているにも関わらず、他の生き物が入っていた。だから、売主の引き渡し義務を履行していない(不完全履行)』との主張をしていると考えられます。
しかし、今回の商品のパッケージには、『えび、かに、いか、たこ、さばなどが混ざる可能性がある』ことを明示しています。また、通常、ちりめんじゃこには、他の小さな生き物が混ざっていることは、一般的には認識されている事柄だと考えられます。
そのため、今回のようなケースで店側に債務不履行があったという主張は認められないと思われます。
以上のことから、通常の取引では、店側が返品に応じる法的義務はないと考えられます」