会社の備品を紛失したら、従業員のボーナスで弁償。そんな独自ルールを作った社長に対する怒りの声が、ネットのQ&Aサイトに寄せられた。
投稿者の勤務先では、しばしば備品を紛失することがある。盗難ではなく、ゴミが大量に出る業種のため、ゴミに紛れて捨ててしまっている可能性が高いそうだ。従業員たちは、定期的に備品のチェックやゴミの確認をしているが、それでも見つからないこともある。
そんな中、会社で10万円の高額備品がなくなった。社長は「これから紛失があった場合はボーナスから社員は一律5000円、パートは1000円を天引きする」と宣言したという。
会社の備品を紛失した場合に、従業員の賞与から補填するという方法は法的に問題ないのだろうか。黒柳武史弁護士に聞いた。
●「二重、三重の意味で問題がある」
「本件における会社の対応については、多くの問題があります。
まず、備品の紛失が生じた場合、従業員の賞与から一定額を天引きするとのことです。
これが、どの従業員が紛失したのか、また、紛失が従業員の過失によるものかが不明であるにもかかわらず、全従業員に責任を負わせる趣旨のものであれば、明らかに問題です」
黒柳弁護士はこのように述べる。具体的には、どんな点が問題なのか。
「損害賠償責任を負うのは、原則として誤って備品を紛失した従業員だけです。全従業員に連帯責任を負わせるような制度は認められません。
また、『社員は5000円、パートは1000円』というように、実際の損害額の大小にかかわらず、一律の賠償額が設定されている点も問題です。
労働基準法16条は、損害賠償額を予定する契約をすることを禁止しています。そのため、仮にこうした定めを契約書や就業規則等に設けたとしても、同条に違反し、無効となります。
さらに、会社が賠償額を賞与から一方的に天引きすることは、賃金全額払いの原則を定める同法24条にも違反し無効です。
二重、三重の意味で問題のある制度であるといえるでしょう」
では、会社が備品を紛失した従業員を特定し、その従業員に対して実際に生じた損害額を賠償することはできるのか。
「可能ですが、その場合でも常に全額の賠償が認められるわけではありません。
損害が発生したことについて、会社側にも問題があるような場合には、賠償請求が制限される可能性があります。
本件では、従業員が、備品の紛失予防のため、定期的な備品のチェックや、ゴミを確認する作業を行なっているとのことです。
それでも紛失が生じるということは、会社の管理体制に問題があるとも考えられますので、賠償請求が制限される可能性があるといえます」