木下 正一郎 弁護士 インタビュー
弁護士を目指した理由
小説やテレビを見ていて法曹には憧れがあったのですが、大学卒業後は一般企業に就職しました。会社勤めをしている中で、ゼネコン汚職がマスコミで報道されていたのを見て、正直者がバカを見ない世の中にする一助になりたいと感じました。これがきっかけで、もう一度法律家、特に検察官になろうと思い、勉強を始めました。
司法試験に合格し司法修習の際に、刑事裁判を通して検察官を見ていると、検察官の行っていることは警察からあがってきたことに基づいて被告人を犯罪者にするベルトコンベアにしか見えませんでした。自分がやりたいことは違うと思い、検察官ではなく弁護士になることを決めました。
医療分野を専門にした経緯
司法試験に受かったのが1999年で、ちょうどその頃新聞で医療過誤の特集が組まれていました。この報道を見て医療ミス等で苦しんでいる方々の力になりたいと思い、医療分野に力を入れるようになりました。
印象に残っている事例
私は控訴審から担当した事件ですが、大学病院を相手にした医療訴訟です。手術中になんらかのミスがあったのではないかと疑われる事件で、手術に関わった医師が手術中にミスがあったということを遺族に内部告発したことで、大々的に報道されました。内部告発により、医療過誤とは別に病院側がこの内部告発した医師を名誉棄損で訴えるという珍しいケースでした。
私は控訴審から主に医療訴訟の方を担当しました。病院側の過失は認められたのですが、患者さんが亡くなったことと医療ミスとの間に因果関係がないとされてこちらの請求は認められませんでした。
比較的多くの弁護団で取り組んだ事件だったので、弁護士が集団で行うことによる力は大きいということを学んだ一方で、医療訴訟における裁判所の壁が大きいということを改めて実感させられた事件でした。
仕事で嬉しかったこと
会社勤めを辞めて弁護士になった理由の1つには、弁護士がお金を貰えながら人に喜ばれる仕事だということがあります。
社会人時代にはプログラマーをやっていまして、どうしてもコンピューター相手なので無味乾燥の部分があります。一方、弁護士は一生懸命やれば、依頼者の方から感謝されるので喜びを感じられますね。
大変だと感じること
弁護士は判断権者ではないので、依頼者の話を聞いてこの人の話は正しいという心証を得ても、裁判では証拠をもって立証していかなければなりません。従って、裁判システムの中で、自己の正当性を主張する代理人としては証拠をもって裁判所を説得することは大変だと思います。
特に医療の場合は、専門性・密室性・封建制という3つの壁があると言われていますから、大変だと感じますね。
弁護士としての信条
一生懸命取り組むこと、都合のいい解決を図ろうとしないことです。
弁護士であれば、例えば、取り立てをする側にも債務者側にもつく場合があります。どちらに立っても法律の理屈を上手く使って解決していくことはできます。しかし、特に医療訴訟の場合は信頼していた医療者に裏切られたという患者さんの気持ちが強いので、医療者側にも患者さん側にもつくというと患者さんの信頼を得られにくいと考えています。
そういう意味も含め、弁護士としての信頼を失わないように、1つ1つの事件で都合のいいことをやらないようにしています。
依頼者に対して心がけていること
この仕事は必ずしも結果が保証されないので、一生懸命やった結果を提示するしかありません。一生懸命やった事件に対して、文句を言う依頼者はいませんし、仮にいたとしても一生懸命取り組んだのなら胸を張っていられます。
私としては「一生懸命取り組む」ことに気を付けていれば、依頼者との信頼関係は築けると思っています。
特に関心のある分野
弁護士としてではないかもしれませんが、2015年に始まった医療事故調査制度が公正で信頼される制度となるよう機関の設立に尽力したいと思っています。
医療事件を中心に扱っている弁護士としては、紛争になったところで金銭請求をして多額の金銭を得られればいいという発想はありません。
医療事故が起こってしまったら、病院が原因を究明した上で、誠意ある対応をすることが重要ですし、そもそも医療機関には医療事故を起こしてほしくありません。
そのため医療事故が起こった際に、原因を徹底的に調べてそれに基づいて再発防止を図っていくことが必要です。2015年にできた制度はその目的のためには不十分なので、適切な医療事故調査制度の実現を求める署名活動や運動を行っています。今後もこの活動には力を入れたいと思います。
メッセージ
私は医療あるいは薬害の事件を扱っていますが、こうした事件を扱っていて思うのが医療関係の事故は決して他人事でないということです。今の世の中では、個々の人々が広く社会の出来事に関心を持つという気運でもないのかもしれませんが、社会でどのような被害が発生しているのかについて関心を持っていただきたいと思います。