英語、スペイン語、やさしい日本語での対応可能〜外国にルーツがある方の案件に取り組む
社会への還元
ーー弁護士を目指したきっかけを教えてください。
大学時代のアルバイト先での出会いでした。南米から来日した非正規滞在(オーバーステイ)の方が働いていました。原則では本国に帰国しなければならない状況でしたが、在留特別許可を得て日本に住み続けることができるようになりました。担当したのが弁護士だと知り、弁護士の仕事に興味を持ちました。
また、私はパナマで生まれ、幼少期をブラジルで過ごしたこともあって、外国の文化や言語に馴染みがあり、外国語を使う仕事に興味がありました。
ーー学生時代はどのように過ごしていましたか。
成績は良くなかったですが勉強は好きでした。図書館にいる時間が長かったです。専攻は「開発学」という、発展途上国と先進国の関係を考える、そんな感じの学問です。
ブラジルで私は親が運転する車に乗っていましたが、その車の窓ガラスを私と同じぐらいの子どもが拭いてお金を稼いでいました。私は小学生でしたが、いったいこれはどういうことなんだろうと不思議に感じていました。その不思議に感じた理由を大学で探していたのだと思います。今も探しています。
大学の卒業式の日に弁護士になろうと決めてから法律の勉強を始めましたが、法律の勉強には非常に苦労しました。ロースクールに入ってからも勉強についていくのに必死でした。
ーー注力している分野を教えてください。
外国にルーツがある方の案件に注力しています。離婚、労働、入管(強制送還など)が多いですが、特に分野は絞っていません。
外国にルーツがある方が直面するトラブルに対応
ーー離婚問題ではどのような相談が多いですか。
離婚をした場合の在留資格について、外国にルーツのある女性の方からご相談をいただくことが多いです。「離婚すると在留資格を失う」と夫に言われたりして、離婚に踏み切れずにいる方も多いです。
「夫が言っていることが必ずしも正しいわけではありませんし、それを正しいと思う必要もありません」と前置きして、詳しくお話を伺ってから法的な見解をお示ししています。
ーー労働分野ではどのような相談がありますか。
「あなたはもう辞めないといけない。あなたの在留資格は取り消されるから日本にいることはできない。早く帰国しないといけない」と、会社や会社の関係者から言われているケースが多いです。
詳しく話を聞くと、会社の主張に法的根拠があるとはおよそ考えられず、また、在留資格が取り消されるようなケースではなく、ましてや、今すぐ帰国しないといけないようなケースではないことはよくあります。
退職については、本人の責めに帰すべき事由があるかないか、会社側の都合なのか、他にどのようなことがあったかなどの事実関係がとても重要です。これらによって方向性は大きく変わります。
また、仕事を斡旋する業者との関係でのトラブルもあります。来日した労働者が仕事をもらえず、給料ももらえず、会社からは仕事がないから帰国しないといけないと言われたりしているようなケースです。
他には、給与からお金を天引きされているという相談も多いです。事前に合意もなく、就業規則の説明もされず、社長の独断で天引きされているケースが目立ちます。
ーー弁護士として活動する上で心がけていることを教えてください。
まず、丁寧な説明を心がけています。外国出身の方々が日本の法制度に詳しくないのは当然です。そのため、できるだけわかりやすく丁寧に説明するように心がけています。
その際、コミュニケーションには気を付けています。当たり前ですけど、外国にルーツがあるからといって英語が話せるとは限りませんし、というか、育った言語環境や言語を勉強したことが話す言語に関係するのであって、ルーツと言語を自動的に結びつけるのは良くないと思っています。
日本での生活が長く、日本語が話しやすい方に対しては、ご本人の日本語のレベルやボキャブラリーに合わせて説明を差し上げています。例えば、「民事訴訟を提起する」は難しいので、「裁判官に私たちのドキュメントを見てもらいましょう。私は、〇〇さんから聞いたことを、ドキュメントを作って説明します。ドキュメントは私が裁判所に持っていきます」と言い換えたりします。
また、英語をお話になられるけれども英語で教育を受けたわけではなく、法律用語のボキャブラリーがあるわけではないという方もいらっしゃいます。過失は英語でNegligenceと言いますが、ただネグリジェンスと言えば通じるかというと全然そういうわけではなく、How much you paid attention to the direction you were going.といった感じで言い換えます。
2つ目は、コミュニケーションの質と頻度です。お客さんとはできるだけ密にコミュニケーションを取るようにしていますが、私からの連絡が多すぎるとお客さんを疲れさせてしまうこともあるでしょうし、不安にさせてしまうかもしれません。
なので、定期的な打ち合わせで「私の宿題はこれ。〇〇さんの宿題はこれ。それはいつまでにお願いします。その後、こうなります。その時、私からまたご連絡を差し上げます。でも、もしわからないこととか、不安なことがあったらいつでも電話してください。メールでもいいです」とお伝えすることが多いと思います。
3つ目に、他分野の専門職との協力です。弁護士のメインのフィールドは裁判所ですが、外にはそのフィールドのプロがいます。労働法の細かい実務に関しては社労士さんの方が詳しいですし、給付金などの制度やサービスについては社会福祉士さんの方がはるかに詳しいです。必要に応じて他の専門職の方におつなぎしています。
ーーこれまでの活動で印象に残ってる事件やエピソードを教えてください。
名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの国家賠償請求事件です。現在も係属しています。弁護士登録1年目に訴状(原告が裁判所に初めに提出する書面)の起案を任されました。
半年ぐらい時間をかけて、その間は新規の案件をすべてお断りして、ほぼすべての時間を訴状の起案に費やしました。年末年始もひたすら起案でした。
正直なところ、能力的にも経済的にも本当に大変な作業でした。しかし、弁護団の先輩方が全力でサポートしてくださったおかげで、無事に訴状を完成させることができました。
もっとも心に残っているのは訴状完成後のことです。弁護団の事務局長の先生が私の目をまっすぐ見て「あなたは素晴らしい仕事をした」と言ってくださいました。本当に嬉しかったです。
外国にルーツがある方が安心して暮らせる社会を目指す
ーー趣味や休日の過ごし方を教えてください。
趣味は語学の勉強です。韓国語、タガログ語、ミャンマー語などをその日の気分で選んで勉強しています。
その言語を話す方にお会いすると勉強してみようかなと思います。深いことは何も考えていません。面白そうだからです。
休日は妻と一緒にカレーを食べに行くことが多いです。高田馬場にある「エチオピア」というカレー屋が特にお気に入りです。行くたびに「世界で一番美味しい」と感じています。
ーー今後の展望についてどのような考えをお持ちですか。
外国にルーツがある方にとっても日本にルーツがある人にとっても、法律家はインフラです。しかし、法的サービスの供給が追いついているかというと、全然追いついていないと思います。
目の前の案件を一生懸命やらせていただくことは当たり前ですが、それだけでは不十分で、いろんな方を巻き込んで、大きな視点で考える必要があると考えるようになりました。
ーー最後に、法律トラブルを抱えている方へメッセージをお願いします。
「こんなことを弁護士に相談しても大丈夫だろうか」とお考えの方もいらっしゃると思います。
全然大丈夫です。気兼ねなくご相談ください。