「依頼者の気持ちを受けとめることを大切に」20年以上の弁護士経験を活かし離婚や労働事件に注力
弁護士の仕事を見たことで司法試験受験を決意
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
はじめから弁護士になろうと思っていたわけではなく、法学部に進学を決めたときは「就職の幅が広がる」という漠然とした考えでした。しかし、大学に入学してみると、司法試験を受けるのが当たり前という雰囲気で、大学側から「すぐに試験勉強を始めなさい」と言われたんです。司法試験に関心はなかったものの、そうした校風に流されるように、司法試験の勉強を始めることになりました。
そのようにして勉強を始めたものですから、最初は法律がつまらなく感じて、大学2年生の頃には「やめたい」という気持ちが強くなっていました。そんなとき、大学の先輩が「気分転換に弁護士の話を聞いてみないか」と誘ってくれたんです。「弁護士の説教くさい話を聞くなんて嫌だな」と思ったのですが、夕食が食べられると聞いて、食事目当てで誘いを受けることにしたんです(笑)。
紹介されたのは、過労死など労働事件を中心に扱っている弁護士でした。自分の経験談を交えながら仕事について説明してくれただけでなく、「弁護士の仕事をよく知るために、当事者の話を聞いたり、裁判を傍聴するといい」と勧めてくれたんです。
知識を詰め込むばかりの勉強に嫌気がさしていた時期でしたから、実際に弁護士の仕事を見れば、「やめたいという気持ちが変わるかもしれない」と思いました。その日をきっかけに、裁判傍聴などフィールドワークをするようになり、弁護士になろうという気持ちが強くなったのです。
ーーその後、司法試験に合格されて現在の事務所に入所されたんですね。
縁あって就職し、20年以上経ちました。当事務所は1968年に設立されました。その当時は、裁判所の近くに事務所を構える弁護士が多かったそうです。事務所の設立メンバーたちは、「弁護士が仕事をしやすい場所ではなく、クライアントが行きやすい場所に法律事務所はあるべき」と考え、弁護士事務所が存在しなかった大田区に事務所を開設したそうです。
「町工場や地域住民の役に立ちたい」という思いで設立された経緯もあり、当事務所には多種多様な依頼がきます。私自身もこの20年で、「町弁」としてさまざまな事件を扱ってきました。
ーー幅広い事件を扱われる中でも、特に相談の多い分野や注力している分野はありますか?
女性からの離婚相談が多いです。離婚はデリケートな問題を含みますので、同性の弁護士に相談したいと考える女性が多いのではないかと思います。私が弁護士登録した頃は、司法試験合格者のうち女性は3割程度でした。この年代の女性弁護士が少ないことから、同世代の弁護士を探している中高年の方や、経験のある年上がいいという若い方が相談に来てくれます。
離婚事件以外には、労働事件にも力を入れています。先ほど話した学生時代にお世話になった弁護士の専門分野でしたので、労働事件は私にとって原点だと思っています。また、大田区には空港があるため、航空関係者からの相談も多いです。
もう一つ、医療過誤事件にも注力しています。医療問題弁護団の代表と副代表が当事務所に所属しており、医療過誤事件は事務所として力を入れている分野です。私も弁護団の一員として、これまで多くの医療過誤事件に携わってきました。
依頼者の強い気持ちが勝ち取った最高裁判決
ーー仕事をする上で心がけていることはありますか?
依頼者の気持ちを受け止めることが大切だと思っています。法律問題を抱えている方は、望んでトラブルに飛び込んだわけでなく、巻き込まれてしまった方が大半です。離婚問題で悩んでいる人も、はじめは幸せな結婚生活を思い描いていたでしょうし、真面目に働いていたのに突然会社から解雇された人も、病気を治しに行ったのに思いもよらない医療事故に遭ってしまった人も、「どうしてこんなことに」という思いが強いはずです。
最初から法律の話をするのではなく、まずは心情を聞いて、依頼者の気持ちを理解することに努めます。話を聞くときは、事件と直接関係のない話であってもあまり遮ることはしません。関係がないと思われる中に大事なことが含まれていることもありますし、「なんでも話せる」と思ってもらうことが、信頼関係を築く上でも大事なことだと思っています。
ーーこれまでの活動で印象に残っているエピソードはありますか?
弁護団の一員として関わった遺族年金不支給処分取消訴訟(2007年3月9日最高裁判決)が印象に残っています。この事件は、私が関わった事件の中でもっとも世間に知られている事件です。
依頼者の女性は、「夫」を亡くして遺族年金の支給を申請しました。ところが「法律上の夫婦でない」という理由で支給を行政から拒否されました。実は、夫婦は叔父と姪の関係で、法律で婚姻が認められていなかったのです。
「夫」は自分が亡くなった後に「妻」と子が困らないようにと、高い保険料を払い続けていました。また、二人の関係は親戚をはじめ周囲の人たちに受け入れられており、普通の夫婦として暮らしていました。それにもかかわらず、行政は「反倫理的」という理由で、遺族年金の支給を拒否したのです。
女性から依頼を受けた私たち弁護団は、遺族年金不支給処分取消訴訟という行政訴訟を起こしました。地裁で勝訴、高裁で逆転敗訴、最高裁で再度逆転して勝訴という激しい争いでした。そのドラマチックな展開も感動的でしたが、私がそれ以上に感動したのは、最高裁の判決を勝ち取ったのが、一人の女性の強い信念だということです。「夫が自分と子どものために残してくれた年金を受け取れないのはおかしい」「反倫理的と言われるのはおかしい」という思いで裁判を起こし、最高裁まで戦い抜くのは勇気のいることだったと思います。
最高裁の判決は、他の事件にも影響を与えます。その後、実際に、同様の訴訟では、地裁レベルでは勝訴判決が出て、国は控訴断念するということが続きました。通達が出て、行政レベルでの取扱も変わりました。こうした「社会を変える」事件に関われたことは、とても貴重な経験でした。
「目の前にいる人を助けたい」という気持ちで動く
ーー趣味や休日の過ごし方を教えてください。
休日は本を読んだり動画配信サービスを利用して海外ドラマなどを見ています。美術館に行くことも好きで、1〜2か月に1回くらいの頻度で行ってます。
アートの世界は、裁判と違って「勝ち」「負け」はありません。しかし、その時々の時代背景を受けたアーティストによる真摯な問いかけには、心を動かされたり、考えされられたりします。美術館での時間はとても豊かな時間だと思っています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
20年以上弁護士を続けてきました。これまでと変わらず、一つ一つの事件に対して、丁寧に取り組んでいくつもりです。
弁護士にもいろいろなタイプがいると思いますが、私自身は「目の前にいる人を助けたい」という気持ちで動くタイプだと思っています。困っている人のために何ができるのかを考えて行動し、その方が新しい人生のスタートを切るための役に立てればうれしいです。学生時代は法律の勉強が嫌いでしたけど、いまは弁護士になってよかったと思っています。
ーー最後に、法律トラブルを抱えて悩んでいる方へメッセージをお願いします。
「弁護士は敷居が高い」と思われている方がまだまだ多いように感じます。「こんなこと相談したら怒られるのではないか」と考える方もいるようですが、そんなことはまったくありません。どうぞ気軽に相談してください。躊躇して相談を先延ばしにすると、解決が難しくなってしまうこともあります。
弁護士に相談したら裁判しなければいけない、ということはありません。離婚事件でも労働事件でも、裁判をする前に、その時点でできる準備はたくさんあります。行動を起こす前の準備段階でも構いませんので、早めにご相談ください。