木ノ元 直樹 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
高校時代にそれまでの勉強では馴染みのない法律に対して、漠然と興味を抱いたのが始まりです。母校である中央大学では、司法試験を目指す仲間が多かったことや、3年生の時に刑事訴訟のゼミで教授(渥美東洋教授)から刺激を受け、本格的に司法試験を目指すようになりました。
修習時代に裁判官教官や検察教官から任官を強く勧められたにも拘わらず弁護士を選んだ理由は、中央大学の卒業生に弁護士が多かったということもありますが、組織の中で働くことよりも自由に仕事をしたいと考えたためです。
関心のある分野
医事紛争及び医療裁判です。医療行為、すなわち、診断や手術を受けるなどの過程での事故において、医療過誤があると患者側からクレームが発生する紛争です。専ら病院側に協力する立場で仕事をしています。
関心を持った経緯
弁護士登録をした時にイソ弁として入った事務所が医療裁判を扱っていたという経緯です。今では担当する案件の9割以上が医事紛争ですが、比較的、精神科医療分野の医事紛争の割合が多いですね。精神病の患者が死傷事件、自殺、あるいは患者同士での喧嘩を生じさせるなど様々な形態の案件に病院の側から関わっています。
紛争解決と制度的な面からの問題解決とのバランスについて
弁護士の仕事は司法の中にあるものです。制定された法律の中で解釈・運用をしなくてはいけません。しかし、そこには限界があります。制定された法律だけで不都合な点があれば、個人としての弁護業務だけで解決することは困難です。
そこで、病院団体などを通じたり、学会を通じたり、さらには行政などに働き掛けたりしながら、法制度そのものに対して問題提起をすることもあります。
印象に残っている案件(事件)
岩手の県立病院の精神科で措置入院の最中に、作業療法として院外内散歩をしている際に無断で離院してしまい、4日後の白昼、そこから約700km離れた横浜で、強盗殺人を犯すという事件がありました。遺族は病院に対して医療過誤を理由にして損害賠償を請求しました。
県側の代理人として私が平成元年から関わることになったのですが、実はこの事件は横浜での修習中に発生し(昭和61年)、実際に裁判傍聴もした事件でした。それが、弁護士となって間もなく自分が担当することになるとは夢にも思わなかったというのが、印象深い第1の点です。
また、事件の社会的な意義を考えますと、精神科医療において、「人権保護のための患者処遇の開放化」という世界的な潮流と、「精神障害者からの社会防衛の 必要性」、という根本的な対立が顕在化した重大事件と言えました。日本精神神経学会や日本精神科病院協会(日精協)なども注目する歴史的事件となったのです。
結論としては、最高裁までいって県側の敗訴となりましたが、この事件への取り組みの中で、日精協や学会の多くの精神科医の先生方と知り合うきっかけとなりました。
仕事の中で嬉しかったこと
高裁で敗訴した判決を最高裁で覆したすことです。
事実審理は高裁で終わってしまいますし、特に医事紛争は医学的評価も含めた事実審理が勝負という面が強いので高裁での結論は重い意味を持ちます。私が担当したある精神科病院の事件で、どうしても病院を敗訴させた高裁判決に納得できずに最高裁に上告したのですが、最高裁は、経験則に違反しているとして高裁判決を破棄してくれました。
※この事件は判例タイムス1240号174ページに載っています。
弁護士になって大変だと感じること
自分の足を使って、全て自分で考え、そして稼ぐというところです。守ってくれる組織立てがありませんから自分自身がやっていかなくてはいけません。
一度に扱っている案件は裁判案件で約30件、その他交渉案件が多数、という状態です。
休日の過ごし方
ままならないこともありますが休日はなるべく作るようにしています。今は、家族と過ごす時間が一番安らげる時間ですね。
弁護士としての信条・ポリシー
医事紛争を専門的に扱う立場としてのものですが、正当な医療を守り、医療崩壊を阻止することを、法的側面から支えることです。法的責任追及という逆風が吹く中で、日本の高度な医療技術を衰退させてはならないと考えています。法的な責任追及を恐れるあまりに、医者が正当な医療をできなくなることは問題です。
依頼者に対して気をつけていること
依頼者あっての弁護士業ですが、常に客観的な見方を維持するようにしています。相談を受けた案件でも病院側にミスがあるのならば、早期示談での解決を促します。逆に、病院には問題がないと思えば、病院側に「争うべきである」との提案をして、共に闘っていきます。
今後の弁護士業界の動向
法曹人口が増加して、専門的な素養の備わった人材の確保が出来ない状況になっているように思われます。極端なことを敢えて言えば、従来であれば弁護士資格を持つに相応しいとは言えないであろうレベルの人でも弁護士資格を取得できるようになってしまったのではないでしょうか。この問題は徐々に現場でも顕在化しているようです。
医事紛争に関する分野の動向
現在、厚労省が医療の制度を考えるための委員会や検討会を作っています。その中には医事紛争、医療訴訟をどうするかという視点から議論されているものもあります。医事紛争防止と解決のために、今後ますます弁護士が活動すべき領域は広がると思います。
一方で、行き過ぎた医療に対する法的責任追及もまた議論されている状況にあります。今後20~30年、あるいは10年くらいの間に、医療に対する法規範が大きく変貌することになるかもしれません。このような流れの中で、医療に関する専門弁護士の役割は大きいと考えています。
今後のビジョン
日々の仕事を結晶化させていきたいということです。具体的にどういうことかと言うと、今までに扱ったそれぞれの事件の中で考えたことや学んだことを整理し体系化して、論文や何かの形で残していきたいと考えています。そのような活動によって「医と法の懸け橋」となれれば望外の喜びです。
ページを見ている方へのメッセージ
法曹人口が増えている中で、法律家に期待されているものが何なのか、ということを意識してそれを見誤らないようにするべきです。弁護士には“スペシャリスト”も“ジェネラリスト”もいるのであって、自分がどのようになりたいのかを入り口の部分で考えることが重要です。
依頼する側の人も、スペシャリスト、ジェネラリスト等、どのような弁護士に依頼するべきなのか、ということを意識するとよいと思います。