中島 智子 弁護士 インタビュー
弁護を目指したきっかけ
私は群馬出身なんですが、生まれ育った田舎町では、女性は「こうでなくてはならぬ」というような旧態依然とした価値観が根強く残っていました。「なんかしっくりこないなぁ」と漠然とした違和感を感じつつも、私の周りではそれが唯一の価値観だっため、当時は何がおかしいのかはっきりとは分からなかったですね。
高校時代に公民で憲法を習いましたが、記憶してテストで穴埋めといった無機質な勉強をしただけで、「法律ってなんてつまらないんだろう」と、法学部にだけは間違っても行くまいと思っていました。かといって自分が何をやりたいのか明確なビジョンもないまま、広く学べるし、当時流行っていたというだけで(笑)、教養学部国際関係学科に入ったんです。
ところが、大学に入ってみると、カバーする範囲が広くて深く掘り下げることができず、このままでは何も(教養すら)身につかずに終わってしまうと思うようになりました。
そんなとき、先輩が憲法のセミナーを開いていて、そこで、人権についてきちんと学ぶ機会を得ることができました。憲法は、「平等」と「自由」を国民に与えていて、基本的には「国と国民との約束事」だけれど、憲法的価値観を一般市民の間にも適用する解釈があるのだと。
漠然と抱いていた違和感は「間違っていなかったんだ」と、視界が開けた気がしました。そこではじめて法律に興味をもち、どうせなら司法試験を受けようと勉強を始めたのです。
当初は、裁判官を目指していましたが、刑事裁判官と検事の関係に疑問を感じたり、人権が制約されてしまう公務員になって窮屈な思いをするよりは、自分の思い通りに生きられる弁護士を目指そうと思いました。
印象に残っている事例
大変だったのを乗り越えられたことで印象に残っている事案があります。留学から帰ってきて、海外の投資ファンドが大型不動産を続けざまにいくつも購入するという案件に携わりました。当時は、不動産の証券化ブームの走りの頃で、事務所にこのタイプのノウハウがあまりなく、運悪くちょうど私の上の世代がごっそり抜けた時期とも重なり、私が重要な位置で動くことになりました。
今はもう色々書籍も出ていますが、当時はスキームや金融庁への提出書類などのノウハウを入手するのが非常に困難でした。何か見落としがないかと心配で眠れない日々も続きましたが、何とか最初の案件を成功裏に終わられることができました。その結果、不動産関連の仕事が飛躍的に増えて、事務所として誇れるまでのプラクティスにまで成長させることができたのは印象深いです。
仕事の中で嬉しかったこと
お客様のために仕事をしているので、お客様に喜んで頂けるのは、やはり嬉しいですが、弁護士としてお客様を満足させなければいけないのは当然のことです。
案件が終わった後に、相手方から仕事を依頼されることもありますが、これはとても嬉しいですね。相手方とは、契約交渉の時に、厳しく対立して激しい議論を戦わせることもありますから、そういう相手から評価されて連絡を頂けると心踊りますね。
弁護士になって大変だと感じること
限られた時間の中で精度の高いものを作りあげなければいけないということです。日曜の夜中にメールが入っていて、緊急会議を明日の朝に開くことになったから、その会議に間に合うように契約書を作っておいてくれ、なんてこともしょっちゅうあります。急いでやったから間違ってしまったというのは許されない仕事です。
また、契約交渉の場合、契約書が合意に至るまで相手方と会議室に缶詰状態になって交渉することがあります。最近はここまでえげつないことはあまりないですが、相手方の会議室でやるときは、お茶のおかわりも、食事も出ないことも。相手方は会議室をちょこっと抜けて自分の部屋に戻って食事をとることも可能っていうわけです。
交渉は肉体的・精神的に疲弊しますから、めげないような体力と精神力が必要です。中には強圧的な態度をとって、ビビらせて交渉を有利にすすめようとする人もいます。言われたことを気にしないタフさが必要ですね。私も新人の頃は相手方の言葉に落ち込んだこともありましたが、場数を踏むことでタフさ、良い意味での鈍感さが養われてきます。
弁護士としての信条・ポリシー
自分として誇れる仕事をすることです。ビジネスの世界では効率性が要求されます。お客様も無駄なことには時間もお金も使いたくないですから、限られた時間と予算内で仕事をしなければなりません。
しかしそれは一方では、弁護士としての質には相反することです。お客様の要請とは別に、自分として満足できると納得したうえで、お客様に提示できる仕事をすることを心がけています。
ビジネスの世界では、常に実践できることではないですが、時には立ち止まって、報酬に見合うだけの仕事で終わらせようと思わないことが弁護士として高い技能を保つためには必要だと思っています。例えば、100しかもらえなくても150の仕事をやってもいいんです。差額の50は損ではなく自分への投資と考えるようにしています。
依頼者に対して気を付けていること
海外のお客様が多いので、お客様の国の法文化に照らし、お客様にとって分かりやすいコンセプトに変換して日本の法律を説明することです。分かってもらえなければ、自己満足で終わってしまいますから。
それと、次に予測される相手方の反応や発生するであろう問題点を、先にお客様に提示しておくことです。次の次を見越した提案をすることで、芳しくない反応が相手方から返ってきても、お客様は慌てず落ち着いて問題と向き合うことができますから。
(インタビュー実施・2011年6月)