柴谷 晃 弁護士 インタビュー
裁判官を辞めた理由と、弁護士を目指したきっかけ
裁判官を8年やったのですが、裁判官のとき最後の3年間を書記官研修所という裁判所内部の機関で書記官を養成するための教官をしていました。それが、それまで5年間やっていた裁判現場の仕事と違いすごく面白くて、魅力的でした。
今は組織が変わったので名称は違いますが、当時は3研と呼ばれる、司法研修所・家庭裁判所調査官研修所・書記官研修所の3つがあり、3研の中では、書記官研修所が教官として一番働くのが楽しいといわれていました。
司法研修所はご存知のとおり修習生が司法試験合格後通うところで、弁護士を目指す人も検察を目指す人も裁判官を目指す人も一緒に習うところなので、たとえば弁護士を目指す人はあまり裁判官に媚を売らなくても言い訳ですから、つかず離れずの関係です。
また、家裁調査官研修所は心理学や教育学や社会学も学ぶようなところで、そこの研修生はその分野は自分達のほうが裁判官よりも詳しいというプライドがあるようで、なかなか両者の関係は難しいようです。
書記官研修所については裁判官をサポートする役割を持つ書記官を養成するところですから、法律を学ぶ必要がありますしそれを必死に身に着けようとするやる気・態度が見えるので、教官の言うことも素直に聞いてくれますし、そういった面で書記官研修生を教えるのは非常に楽しかったです。
ところが、その教官の任期は3年と決まっていて、終わったらまた裁判官の現場に戻らなくてはならないのですが、それがすごく嫌になってしまい、辞めて、そして弁護士になりました。
ですので、積極的に弁護士になろうと思ったわけではなく、定年まで平教官のままでもいいので、できることならずっと書記官研修所の教官を続けたいくらいでしたが、そうもいかないので弁護士になるという道を選びました。ですがやる気のある学生を教えたいという思いは変わらず、そういった経緯で今駒澤大学の法科大学院でも教えています。
印象に残っている案件(事件)
私は普通の弁護士ですので、社会的意義のある立派な事件というのは経験がありません。一つ最高裁で口頭弁論が開かれた事件がありました。最高裁の事件は普通は紙切れ1枚で上告棄却で終わります。最高裁で口頭弁論を開くということはまれで、高等裁判所の判断をひっくり返すというときに行われます。今回もそのケースでした。
法定地上権が成立するかしないかが争点となる事件で、事実関係がものすごく複雑で簡単に判断は出来ませんでした。私の予測では法定地上権が成立する、つまり私の依頼者に不利になると思っていました。しかし、負けを予測したからって何もしないわけにはいきませんから、法定地上権の不発生の理屈をこねて頑張ったところ、なんと第一審で勝ってしまいました。そのときは依頼者に負けるかもしれないと言っていたにも関わらず勝訴したのでもちろん依頼者は喜んでくれました。
ところが、控訴審では担当裁判長が最高裁の民事調査官の経験のあるえらい人にあたってしまい、今回こそは駄目だと思い、依頼者にもそう伝えました。しかし、またも勝ってしまいました。負けると言っていたのに2回も勝ってしまうと、今度は依頼者は私のことを怪しみ始めるのですね。勝てる事件なのに「負ける、負ける」と、なんて弱気な弁護士なんだろうと不審の目で見始めるわけです(笑)。
しかし、その後上告審で最高裁で口頭弁論を行った結果、やはり私の当初の判断どおりそこで結局負けてしまいました。結果は敗訴で終わりましたが、私の法律判断は正しかった訳だし、本当は敗訴事件であるにもかかわらず、理屈をこねて、とりあえず一審の裁判官と控訴審の裁判官の合計4人の裁判官を自分の考えた理屈で説得できた訳ですから、自分の法的判断能力と論証能力に自信を持てる結果となりました。いわば、勝負に負けて試合に勝ったような事件なので、印象に残っています。
依頼者との付き合い方
自分で言うのもなんですが、私は自分の論理的思考能力に自信を持っております。弁護士の中には感情移入をする人がいますが、私はそれはあまり好まず、むしろクールなさっぱりした関係で、私の法律能力を買って選んでくれた方が嬉しいです。
仕事の中で大変だったこと
弁護士というのはある程度客商売の要素があります。いくら法的能力を買ってくれれば良いとはいえ、ご依頼者様の意向を聞いたり顔色を伺うことは必要です。その点、裁判官はそんなことまったく考えなくて良かったので気楽でしたが、弁護士はそうもいかないのでそれがストレスです。
休日の過ごし方
私はスポーツはやりません。私は千葉に住んでいるのですが、休日になると車で霞ヶ浦や筑波山までドライブしてそこでぼーっとすることが多いです。森の中で、ぼーっとしながら、担当事件の反対尋問や準備書面の構成を自由にあれこれと考えるのが好きなんです。
土曜はだいたい仕事をしますが、日曜は意識的に弁護士の仕事はやらないことにしています。ただ現在行っているロースクールの教員の仕事が大好きで、教材や講義ノートを作成するだけでもそれ自体が息抜きにもなるので、日曜にそういうことをすることもしばしばです。
弁護士としての信条・ポリシー
私はあまりクライアントに対して迎合するといったことはしません。おそらく、弁護士として一番簡単な商売のやり方はクライアントの言うとおりにして、クライアントの言うとおりのことを裁判所に提出する書面に書いて出しておけば、最悪負けてもクライアントに怒られはしないですから、それが一番商売上手なやり方ではないかと思います。
しかし、私はクライアントの言うことを聞かないタイプです。それで負けたときはクライアントから怒られますが、やはりこちらも法律のプロである以上、素人の指図は受けたくありません。プロの法律家としてプライドを持てる訴訟活動をしています。
法律の知識をクライアントにも教えて、クライアントの法律知識も高めて私の方針を理解していただき、そしてそれで気に入ってくれればまたきていただきたいというスタンスです。しいて言えば、私はクライアントの言いなりにはならないということを信条にしています。
関心のある分野
担保法や民事執行法が専門なので、その分野は興味があります。