「過労死のない社会にしたい」その思いを原点に労働問題に取り組み、依頼者の思いに寄り添う
過労で母が倒れたことが労働弁護士を目指した原点
ーー弁護士を目指したきっかけを教えてください。
小さい頃から弁護士や検察官が活躍するドラマを好んで見ていて、子どもながらに「自由で人の力になれて、すばらしい仕事だな」と憧れをもっていました。
その憧れが目指すべき目標に変わったのは、大学2年生のころに母が過労で倒れたことがきっかけです。くも膜下出血で一時は命の危険もある状況で、どうにか命はとりとめましたが、労働者の権利について深く考えるようになりました。労働者の命や権利を守るための力になりたいと思うようになったんです。それを実現できる職業が弁護士だと思い、目指すことを決意しました。
ロースクールに進学し、電通事件などの痛ましい過労死事件の判例などを学ぶうちに、ますますその思いは強くなりました。そうしたこともあって、弁護士になってからは過労死や労災などの事件を中心に、労働問題に注力しています。
「過労死で残された遺族を救いたい」
ーー過労死事件を扱う上で、心がけていることはなんでしょうか。
過労死の場合、どんな労働実態であったのか本人からお話を聞くことはできません。そのため私が、本人が残していった痕跡を辿り、どんな働き方をしていて、どんなつらいことがあったのかを丁寧に汲み取ることを心がけています。
また、残された遺族の心情にも寄り添うことを大切にしています。私も母が倒れた経験があるので、お気持ちを少しはわかるつもりではいます。遺族の気持ちに寄り添って事件を進めていくことは、非常に心がけているところです。
ーー過労死事件の場合、遺族はどのような補償を受けることができるのでしょうか。
まずは過労死が労災に認定されれば労災保険が支給されます。その他、会社に対して、過労死するほど働かせていたことは安全配慮義務違反にあたると主張して、民事上の損害賠償請求を行います。その両方で遺族の救済を目指します。
労災と認定されるためには、労災認定基準にあてはまる必要があります。建設現場で作業していたときに怪我を負ったようなケースは、基本的に認定されますが、過労が原因で自死したと思われるケースでは、自死が過大な業務に起因したものであることを明らかにする必要があります。
仕事で忙しく寝る時間さえなかった、業務上のトラブルでつらい思いをしていた、プライベートでの悩みや精神的な病の既往があった、などといった点を調べ、自死の原因を検証していきます。
その上で、業務に起因するものがあったと認定されれば、労災になります。自死以外にも、脳や心臓の病気が発症した場合も同様の検証がされます。こうした因果関係を明らかにすることは決して容易ではなく、労災や使用者責任が認められない例は少なくありません。
ーーこれまで弁護士として活動してきた中で特に印象に残るエピソードを聞かせてください。
ある過労死事件のことです。企業で働いていた男性が精神疾患を発症して自死し、妻と小さい子どもが残されました。子どもは、なぜ父親が突然いなくなってしまったのか理解できず、「パパはどこにいるの?」と憔悴した母親に聞いていました。
その姿を目の当たりにして、過労死事件は、本人はもちろん家族の人生も悲惨なものにするのだと改めて痛感したんです。この事件は最終的には家族も納得する形で解決をすることができましたが、その後も遺族のことが気になっていました。
そんなあるとき、残された妻から近況を伝える手紙が届きました。手紙には、子どもの成長や、家族で仲良く元気に暮らしている様子、そして私への感謝の言葉が綴られていました。
もちろん夫・父親を亡くした傷は簡単に癒えませんが、今は生活を立て直し、平穏に暮らせていることを知って、また、そのために自分がしたことが少しは役に立ったのだと思い、とてもうれしかったことを覚えています。この仕事をやっていて本当によかったと思いました。
航空業界の労働問題にも取り組む
ーー過労死事件の他にはどのような事件に取り組んでいるのでしょうか。
羽田空港の近くに事務所を構えていることもあり、パイロット、客室乗務員、地上スタッフなど航空業界で働く方々の労働問題を多く扱ってきました。
コロナ禍によって世界的に移動が制限され海外渡航が激減したように、航空業界はイベントリスクに弱い業界です。急激に需要がなくなり、突然経営状況が悪化することもあります。
そのため、他の業界よりもコストダウンのために雇用調整するという経営判断が起きやすい業界です。とくに外資系の航空会社で顕著です。なかでも客室乗務員は、雇用の調整弁にされることが多く、本国の正社員とほとんど同じような仕事をしていても、日本人は有期雇用で、かつ4年や5年しか採用されない、といった扱いがなされていることが多くあります。
そうした方の雇用を守るために、また、退職することになったとしても適切な補償が受けられるように取り組んでいます。
ーー今後の展望について聞かせてください。
不合理な点のある、現在の労災の認定基準を改善していきたいです。そのために、過労死弁護団の事務局の一員をしています。
今では信じられないでしょうが、以前は「わずかでも休暇が与えられていたら労災ではない」「自死は労災ではない」といった考えの時代がありました。関係者の努力があって、少しずつ救済のハードルが下がり、昔に比べれば常識的な基準になってきています。
それでも、例えば精神疾患の既往については事実上救済の道が閉ざされているなど、まだまだ問題は残っています。認定基準を妥当で適正なものにしていきたいです。
そもそも過労死が起きない社会が望ましいので、過労死を防ぐための啓蒙活動もしていきたいです。また、法律実務家として、悪い法律を作らせないように立法面にも働きかけていきたいです。
ーートラブルを抱えて悩んでいる方へ、メッセージをお願いします
「弁護士に連絡するハードルは高い」「こんなことを相談してもいいのかな」。そう思わずに、悩みを抱えているときは、迷わず弁護士に相談してください。相談したからといって必ず依頼しなければならないわけではありません。悩んでいることを話すだけで楽になることもあると思います。ぜひ、気軽に相談に来てほしいと思います。