石黒 麻利子 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
子どものころクモ膜下出血で急逝した母への思いから、脳の研究をしたいと思い、脳科学者の道に進みました。
国立の研究所で文部科学省のCOE研究員としてアルツハイマー病の研究に携わっていましたが、身内の医師が医療訴訟に巻き込まれ家族を守ろうと法曹への挑戦を決め、38歳で法学部に入り直しました。
医療過誤に携わったきっかけ
司法試験を目指して勉強中、義父が脊柱管狭窄症の手術で神経を損傷され両腕が動かなくなる医療事故に遭い、家族総出で義父の介護をしましたが、医療事故は患者本人だけではなく家族にとっても大変つらく、生活を崩壊させることを経験しました。
被害者救済と不当な医療訴訟を無くすため医療専門弁護士になりました。
印象に残っている案件(事件)
もちろん一つ一つが大事です。その中でも術後心停止の事件は印象的です。第一審で患者側が敗訴しており、控訴審から受任しました。
術後管理不足から患者の心停止に気付かず、心停止から30分後に心臓マッサージが行われたことを示す心電図の波形があり、専門医の鑑定意見書を多数証拠として提出しました。心停止から30分経ってから心臓マッサージをしても意味をなさないことは当たり前ですが、第一審で下された判断は覆りませんでした。
医学の常識は、裁判では、通用しないことを痛感しました。裁判官が真相を解明してくれるという幻想を持たないように気をつけて頂きたいですね。
仕事の中で嬉しかったこと
勝訴して「ありがとう」と言われたときはもちろん嬉しいですが、相談者や依頼者から、「先生に相談してよかった」と喜んで頂けたときは本当に嬉しいです。
もちろん相談の結果、良い返事が出来る時ばかりではありません。医療過誤とはいえない場合は、医学的な根拠を具体的に示して過失ではないことをはっきりお伝えしていますが、過誤ではないかと悩んでいた方から「相談をしたことで気持ちが切り換えられました」と喜んで頂けたときなどは、良い人生を送って頂きたいと心から応援しています。
弁護士になって大変だと感じること
医療過誤事件では、患者さんが亡くなったり、後遺障害が残っており、患者や家族の人生に関わるだけに、とても重いんです。しかし、医療側が過失を認めず補償を受けられないケースもあり、裁判になっても医学の常識が必ずしも通用するとは限らないので悩ましいです。
休日の過ごし方
休日も仕事をしていますね。翌週の医療相談に備えて医学書を調べたり、協力医に相談したりしています。夫の仕事の関係で二拠点生活をしているため週末は移動と家事であっという間に過ぎてしまいます。
弁護士としての信条・ポリシー
いつも最高のサービスを提供することを心がけています。費用倒れになるため受任できないときでも、本人で申立てが出来る裁判外の紛争解決手続である医療ADR(Alternative Dispute Resolution)を紹介するなど様々な解決策を具体的にアドバイスしています。
弁護士事務所に来るということはそれだけで大変なことだと思います。医学的な観点から踏み込んだ説明をするなど、「わざわざ相談に来てよかった」とご満足頂けるような、他ではできないサービスを提供するように努めています。
依頼者に対して気をつけていること
依頼者の利益を最大限守ることです。金銭的な利益だけではありません。例えば、示談でまとまるのに裁判を強く希望される方や法的責任追及が困難であるのに敢えて裁判を望む方に対しては、裁判のリスクを説明して提訴をすべきではないことをはっきり申し上げます。
医療過誤訴訟は費用も時間もかかり、相手方から提出された書面や証拠で精神的にダメージを受けるなど、依頼者は、弁護士がいても裁判が終わるまで事件にかかわらざるを得ません。強い意思と家族の協力が必要であり、経済的・精神的に大変な負担になりますから、依頼者の為にならない裁判は勧めません。その時は、納得できないかもしれませんが、依頼者がいつか分かって下さると信じています。
関心のある分野
医療事故、交通事故など、医療関係事件の早期解決法に関心があります。医療紛争の早期解決法は、医療側に過失があれば医師賠償責任保険等を使い裁判所の算定基準に沿った損害賠償額を保険会社から支払わせ示談書を交わすことです。
当事者間の話し合いが難しい場合は、裁判外の紛争解決手続きである医療ADRを利用し、第三者を入れた話し合いにより解決する方法があります。東京三弁護士会(東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)では医療専門弁護士(患者側、医療側各1名)、一般事件を扱う弁護士の3名があっせん人になります。あっせん人名簿からの指名、損害賠償額のあっせん人案の提示が可能です。裁判と異なり非公開で柔軟な対応が可能なため紛争解決の一手段として医療ADRの周知に努めています。
今後の弁護士業界の動向
今後の弁護士業界を予測するには、今どうあるのかを分析し検証する必要があると思います。他業種から法曹に入ると、その閉鎖性、保守性にしばしば驚かされます。
例えば、今の法律事務所では他の弁護士からの紹介という形で仕事を受けるのがスタンダードで、一般にはまだ開かれていません。法曹人口の増加と社会の需要の変化に合った、新しい分野の開拓などがこれから進んでいくのが望ましいです。
今後のビジョン
公益的な活動をしたいです。例えば、美容整形事案では、裁判で勝っても損害賠償額が少なく、費用倒れになることが少なくありません。そのため、泣き寝入りになっているケースも多いと思います。
誠実な対応をする病院も少なくありませんが、同じ病院の被害者が複数相談にいらっしゃることもあり、不適切な施術が繰り返されているのだと思います。本来は、行政や立法で手当てしなければならないと思いますが、法曹の立場で自分なりに被害者の救済に役立ちたいと考えています。
ページを見ている方へのメッセージ
弁護士はきちんと選ばなければいけません。医師に専門があるように弁護士にも専門があります。初めて相談した弁護士に委任するのではなく、他の弁護士にも相談し、信頼できると思う弁護士に依頼されるとよいと思います。