圷 由美子 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
幼い頃から、将来結婚し子を授かるなどライフステージが変化した場合も、仕事を続けていけたらと考えていました。何か資格を持っていれば、産後もきっと復帰しやすいのではないかと思いました。
小学校6年生の時、社会科の授業で四大公害訴訟を学び、当時、声なき声を届け、被害救済に向けて動いたのが弁護士という職業だと知って、純粋にかっこいい!と思いました。その頃から漠然と、弁護士になれたらいいなと考えるようになりました。
仕事の中で嬉しかったこと
相談者は、困難の最中にあり、少なからず動転されています。そうした方々が、事件解決を迎え、事務所を後にされる際、晴れやかな面持ちになっていたり、その後年賀状などで、「元気です」とか「こういう風に過ごしています」などとお知らせいただいたとき、人生の一場面を共に歩めて良かった、という思いになります。
ご本人の体験を、陳述書という書面にまとめる場合があります。ある事件で、事件当時のその方の状況に思いをはせながら案を作り、ご本人にメールをお送りしたところ、すぐさま、お電話いただいたことがありました。電話口でご本人は泣いていらっしゃいました。「私の言葉にできない気持ちを全部ここに盛り込んで頂き、すごく嬉しかった」と言っていただき、思わず涙ぐみました。
弁護士になって大変だと感じること
弁護士は、法曹三者の中でも裁判所や検察庁と違い国家機関でないため、むき出しで依頼者・相手方と対峙しなければなりません。その点が魅力でもあり、難しさでもあります。また、裁判官・検察官と違い、通常、国家からの月給もありませんので、依頼者一人ひとりから金銭をいただく交渉からスタートせねばなりません。経営を成り立たせなければ、持続可能な活動もできず、ついつい突っ込んでしまうプロボノ活動とのバランスも難しいですね。
仕事をする上で意識していること
誠実に職務をこなし、プロとして恥ずかしくない仕事を、との思いは弁護士登録時から変わりません。 登録20年を超えた今は、「オリジナルスパイスでプラスα」を意識しています。ご縁をいただいた方々に、やっぱりこの件は圷に頼んで良かった、と喜んでいただけるよう、ひと工夫も、ふた工夫もしたいと考えています。
「心は熱く、対応はクールかつ冷静に」がポリシーです。
気持ちの面で共感しつつ、いざ業務遂行するときには、法的根拠に基づき、冷静かつ説得的にこなすよう努めています。
最終的には事件を終結させねばなりませんが、その場合、裁判所や相手方との一定の信頼関係が必要です。依頼者のみならず、裁判所や相手方弁護士からも、プロとして、かつ人として、一定の信頼を寄せていただける仕事を心がけています。事件終了後に、相手方弁護士だった方から、実は、この件、先生に頼みたいんだけど、と別件業務のご連絡をいただいたときには、同業者として信頼してもらえたかな、と思いますね。
関心のある分野
労働問題です。なぜなら、人や社会の営みに労働は欠かせぬ問題であり、また、個々人にとって働くことは、生き甲斐といった重要な意味も持っているからです。
実現したいのは、「誰もがどんなライフステージでも人間らしく安心して働き続けられる職場環境と社会」です。そのため、個別事件を手掛けながら、国・地方自治体・企業などに対する、研修や第三者委員としての提言なども、ライフワークとして行っています。
今後の鍵は、労働時間にとって表裏の関係にある「生活時間」の見直しとそれを支える法概念化だと考えています。「生活時間」の法概念化は、働く者のためだけではありません。現状、職場に時間を奪われ、生活時間を共有できていない家族等にとっても、より良いツールになれば、と考えています。
印象に残っている案件(事件)
沢山ありますが、一つ挙げるならば、日本マクドナルド店長「名ばかり管理職(管理監督者性)」事件です。労働時間関連は様々手がけてきましたが、在職しながら会社を提訴するケースは初めてでした。
ご本人は職場や仕事をとても愛していました。残業代目当てかといった心無い攻撃も受けましたが、自分がアクションを起こすことで職場がより良くなれば、という思いからの提訴でした。「人間らしい働き方ができる職場の実現を」という彼の勇気ある問題提起が、今の私の使命へとつながっています。
今振り返ると、提訴はもちろん、提訴時の記者会見も社会的に重要な意味があったと思います。それによって、「名ばかり管理職」という新語が生まれ、「管理職=管理監督者」とする日本の職場慣行は違法、との理解や長時間労働に対する問題意識が一気に高まるきっかけになったように思います。
会社を訴えた現職店長ということで、様々なご苦労があっただろうと思いますが、無事店長として定年を迎えられたとのご連絡をいただいた時には、本当に嬉しく思いました。
今後の弁護士業界の動向
私の司法試験合格は1998年度で当時の合格者は約800名、うち弁護士登録者数は約600名でした。その8年後の2006年から新司法試験制度が導入され、2007年度の合格者数は2000名超(合格率40.2%)になりました。弁護士総数でいえば、1998年度約16000人だったものが、2020年度には、42000人超になっているわけですから、業界としては、競争社会にならざるを得ない状況、プロボノ活動も一層行いづらい状況になっているかと思います。
ただ、私個人として現状できることは、信念を持って、一つ一つ心を込めて業務をこなしていくことに尽き、それが次に繋がるのだろうと思っています。
弁護士数が増えることに関しては、質を保つ措置は講じねばなりませんが、解決せねばならない法的課題は山積みです。様々なバックグラウンドを有する弁護士が、それぞれに社会的使命を全うし、より良い社会に向け、そうした課題に取り組むということであれば、良いことだと思いますね。