鈴木 雅人 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
この点は法学に興味を持ったきっかけと、何故司法試験を受けようと思ったか、何故弁護士になったかという三段階のステップに分けてお話したいと思います。
法学については、私は子供のことから社会科というのが得意でして、政治や経済など世の中の話を面白いと思う下地が元々ありました。たまたま、高校一年のとき、現代国語の授業で新書を一冊読んで感想文を書け、という課題を与えられまして、その時にたまたま法律の新書を読んでみたところ、これが面白く性に合っていると思いました。それで大学の学部選定をする時に法学部受験を考えたわけです。
次に司法試験を受けることにしたのは、単純ですが、当時の私にとって法律関連の仕事ということで法律家というのが最もストレートだったということです。父の知り合いに弁護士がいましてイメージし易かったということもありますし、裁判官や検察官の仕事も調べる中でこれは是非やってみたいものだと率直に思いました。司法試験合格は大変だと聞いていましたが、どうせ勉強をやるのなら大変なことでもむしろこれにチャレンジをしてみようと思っていました。
それでは、司法試験を受けた後どうするのかという話になりますが、高校三年の当時、私は刑事の裁判官になろうと思っていました。元々は弁護士志望ではなかったのです。大学合格後、司法試験の受験中も裁判官になるために勉強をしていました。ところが合格後、私は大阪に修習に行くことになるのですが、大阪は弁護士が非常に元気のいい土地でして、そこで色々な面白いことをやっている著名な弁護士を数多く見ることになります。
特に、私は弁護修習の際、豊島産業廃棄物事件という事件をやっていた大川真郎先生に大変お世話になりました。そして大川先生の下で4ヶ月間の修習をする中で弁護士の仕事は幅広で率直に面白いなと思いましたし、そこで初めて裁判官ではなく弁護士というものをやってみたいなと思い始めたわけです。
元々刑事の裁判官になろうと思って司法試験に合格し、研修所に入ったわけで、裁判官と弁護士のどちらにしようかずいぶんと迷いましたが、最終的には幅広く色々なものに触れるほうが面白いだろうと思って弁護士になりました。ちなみにその決断は今でも間違ってなかったと思っています。
印象に残っている案件(事件)
印象に残る事件というのは、勝って良かったという事件ももちろんあるのでしょうが、どちらかというと失敗した事件の方が印象に残っています。
例えば刑事事件で一生懸命刑事弁護をしていく中で、何とか執行猶予が付いた、といったような事件もあるのですが、その後に上手く更生していっていないということが分かることもあります。こういうことを知ったときに、果たして自分はどうすべきだったのだろうか、と思い悩むこともあります。
仕事の中で嬉しかったこと
色々なキャラクターの人がいると思いますが、私は比較的訴訟を多くやっている訴訟弁護士ですので、きちんと主張が通って勝つことは率直に嬉しいものです。きちんとやるべきことをやって、やるべき主張が通って、結果がきちんと出るということが一番嬉しいですね。 また、自分の仕事が世の中や人の役に立った、自分の仕事が何か良い方向に機能したと思える時は嬉しいですね。
弁護士になって大変だと感じること
まずもって、人の話をきちん聞き出すということは大変なことです。また、裁判の証拠書類など色々な資料をきちんと読むことも大変なことです。ただ単に聞いたり読んだりするだけならいいのでしょうが、その中から大事な物を掴む作業というのが生半ではありません。掴み方を間違えると大変なことになるので、正しい物を掴むこの作業が一番頭を使います。一番面白いところでもあるのですが。
休日の過ごし方
難しい時もありますが、基本的には仕事のことを考えないようにしています。オンとオフは大事にしようと思っていますし、休みの時間というのは仕事との関係ではできるだけ空白であるようにしたいと思っています。
弁護士としての信条・ポリシー
物事の均衡、バランスというものは良く考えることにしています。どこまでが主張として通るのかはこのバランスというもので決まってくると思っています。
ただ、一方で理不尽は許さないということは大事にしようと思っています。理不尽さも色々でしょうが、少なくとも自分が「これは余りにも理不尽でしょう」と思うことが何なのかはきちんと押さえる必要がありますし、本当に理不尽なことはとことん突き詰めてもバランスは失しないはずですので、徹底的に追及しなければならない場合もあると思っています。
いずれにせよ、この両者をどう考えていくかは非常に大事なところではないかと思っています。
依頼者に対して気をつけていること
ともかくよく話を聞こうと思っています。単なる言い漏らしのほかにもこんなこと言ったら困るのではないか、こんなこと言ったら笑われるのでは、といったように思っておられることが、我々に相談に来られる方にはよくあります。
こんなこと言っていいのか、あるいはこんなこと言ったら都合が悪くなるのではないかといったようなことを考えて、話す内容を抑えておられる場合もないわけではありません。ところが、我々はそういうのもひっくるめて全部知りたいと思っています。そうでないと事件の全貌というのは見えないのです。そういった意味では話やすい雰囲気をどう作ろうかといったことに気を使います。
私に全ての事を話して一緒に考えてもらおうと依頼者の方に思ってもらえる雰囲気を作ることはなかなか簡単なことではないし、経験が物を言うことでもあります。私もまだまだ弁護士としてのキャリアが長いわけではなく、キャリアの長い方々に比べると難しいところもありますが、そういった環境をどう作ろうかということはいつも考えています。
言い漏らしや物事の裏側を話してくれるかどうかはその方の胸一つなので、そういったところを話してもらうにはどうすればいいかといったことを考えています。
関心のある分野
私がロンドンに留学していた時に知り合った方とのご縁で今仕事をしていることもあり、最近私が一番関心のある分野は海事法です。
今後の弁護士業界の動向
業界全体としてどうかと言いますと緩くはないのでしょう。色々な考え方がありますが、少なくとも「ライセンスを手にしたから、後は安泰、もう大丈夫」という時代は既に終わっています。
しかしながら、そもそも事務職というのは混沌とした世の中の事象を一定のゲージ(”Gauge”、整理を行うに当たっての基準・ものさし)を使ってきちんと規律していく仕事です。法律家も事務職の一種でして、我々はそれを法律というゲージを使ってやっています。
他にも会計基準であったり、ある種の技術であったり、はたまた業界の慣習であったりと色々なゲージがあるわけですが、「他人の裁判を代わりに担当しても良いくらいに法律というゲージをきちんと使える人ですよ」ということがこの法律家というライセンスを持っているということの意味です。
こういうライセンスを持って我々がやる仕事の典型というのは、裁判官や検察官、弁護士であれば法律事務所での仕事といったように、これまでの法曹三者が行ってきた仕事なのでしょうが、法律というゲージで世の中の事象を規律することのニーズがそこに止まっているのかといえば、必ずしもそういうわけではない。
これは1つの例ですが、アメリカでは法律家の資格を取得した後、直ちに政治家の政策秘書や党の役職に就いて、政治の世界に入る例もあります。現在の駐日大使のように法律家の資格を持ちつつ外交の世界で活躍する人や、役所、企業、あるいは環境団体のようなNPO法人といった組織に所属して、そこで法律の分野はもちろん、これに留まらない大きな役割を担っている人もいます。
先ほどもお話したとおり、法律事務所で働くというのは弁護士の典型的な一つの仕事の形だと思うし、特に裁判を仕事の中心に据えていきたいと思っている人にとって、法律事務所への就職を目指すのが一般的、という流れ自体は今後も変わらないとは思います。
ただ、一方で「世の中で法律事務所での仕事しか弁護士には存在しないのだ」と思う必要はないし、裁判の仕事においてでさえ「法律事務所に居なければ一切関与できないのだ」と思う必要もない。
その様に思い込んでしまうと、弁護士の就職難の話などが報道されている中で悲観的になりがちですが、自分の面白いと思っている関係の分野に、自分の持っているライセンスを上手く使いながら、どうやって関わっていくのか、ということを柔軟に考え、多数の選択肢の中から自分が「これだ」と思うものを意志的に掴み取っていける人であれば、さほど悲観する必要はないのではないかと思っています。
今後のビジョン
法曹界を巡るこの時代状況の中で10年先、20年先を見通すということはなかなか難しいことであると思います。当たり前のことですが、私も含めて誰もが今後を保証されているわけではない。ただ、どんな事象に直面するにせよ、私としてはライセンスを持っている人間として「今後の弁護士業界の動向」で述べたような発想を常に持っていたいと思っています。
また、自分が心底面白いと思える仕事をやっているような形にはしていたいと思います。どんな仕事もそうでしょうが、所謂情熱や熱量のようなものが物を言うことがあります。この熱量がどういった時に発生するかというと、ある問題に関して「これは面白い」、「これは許せない」と思う時ではないかと私は思います。
それだけで裁判や紛争が解決するわけではありませんが、そういった熱量の話というのはなかなかに大事なわけでして、そういうことをきちんと思えるように、社会とどういう形で接していくかが重要ではないかと私は思っています。