末冨 純子 弁護士 インタビュー
なぜ、弁護士になろうと思われたのですか。
大学卒業後、最初に就職した民間企業で、アンチ・ダンピングや、移転価格税制等のグローバルな法的規制の現実や、企業内でも想像以上にコンプライアンスへの努力が行われているのを目の当たりにし、法務に関する専門性を身に付けることに興味を持ち始めました。また、それと同時に、社会に出てみると、我が国では命を守る技術や体制が発達していることに比較して、人権を守るシステムは未成熟であると感じました。それが、弁護士になろうと思ったきっかけです。
外務省勤務に至った経緯を教えて下さい。
弁護士になってからさまざまな経験をしてきましたが、大阪で弁護士として勤務していた際に留学の機会をいただき、アメリカの法律事務所で働いたこともありました。留学中にWTO関係の事項に接する機会が多くあり、その重要性を認識するに至りましたが、当時は、この分野で弁護士活動に将来携わることを予想していませんでした。帰国後、弁護士業界が変貌の時期を迎え、ロースクールの開校や、弁護士数の増加など、業界の状況が刻々と変化していきました。そのような中で、弁護士として専門性を身に付けることについて先輩方と話す機会があり、いろいろとアドバイスをしていただきその重要性を実感し始めていた時期に、任期付公務員としての外務省職員の募集広告を弁護士会から受け取りました。業務内容がWTO関係であったことや、アンチ・ダンピング、あるいは半導体業界に対する補助金、関税の問題等、従前経験した業務と深く関係することが重なっていたこともあって応募に至り、最終的には外務省に勤務することとなりました。
外務省勤務時の業務内容について教えて頂けますか。
主に国家間の通商紛争の解決を担当していました。GATTが発展解消して成立したWTOの設立協定であるWTO協定の中に紛争解決に関する付属書(紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(DSU))があります。DSUには紛争解決についての手続が規定してあり、そのルールに基づいて、紛争解決手続が進行します。WTO協定には、補助金についてのルールや、他国の企業を自国の企業に比べて差別的に取り扱うことがないようにするなど、いろいろな約束事があります。DSUは、WTO違反行為があった場合に、当事国の申立により紛争解決機関(DSB)においてWTO違反の有無を判断する手続を整備しており、その手続は、GATT時代の紛争解決制度から前進しています。DSBにおいては、第一審のパネル、第二審の上級委員会という二審制が採られています。しかし、さらに画期的であるのは、協定非整合であると認定された行為について当該国が是正措置を採らない場合、相手国はDSBの許可を得た上でいわゆる対抗措置をとることができることです。私の業務は、このような紛争解決手続において、日本が当事国、あるいは第三国として参加した場合に、口頭聴聞や、意見書の作成、各関係機関との調整などを担当することでした。
印象に残っている事件・案件を教えて下さい。
外務省で扱った案件では、ゼロイングという米国におけるアンチ・ダンピングのダンピング・マージンの計算方法についての案件や、IT製品に対してEUが関税をかけていたことを違反と主張して、米国及び台湾と共同で提訴し勝訴したケースがあり、それらが強く印象に残っています。外務省に入って最初に担当した案件は韓国からの半導体に対して日本が賦課していた相殺関税についての案件でしたが、そのときは一緒に担当していた同僚に外務省での公電の打ち方等基本的なことを一から教わり、とてもお世話になりました。 また、国内の裁判では医療過誤訴訟も印象に残っています。ある大学病院の看護師さんの弁護人・代理人を担当させていただきました。医療過誤という重い現実に対して今後どのように対応すべきかということも含め、いろいろと考えることが多い案件でした。依頼者の方は、その後も医療過誤について勉強し向き合ってこられました。その姿には頭が下がりますし、私自身が力づけられています。これからも何か私で力になれることがあればお手伝いをしたいと思っています。 知的財産関係では、大学が海外の研究機関と共同開発や事業を行う際に締結する契約のお手伝いをさせていただいたことが、今後の研究・開発の可能性を感じ、印象に残っています。 企業再編の案件では、様々な関係者にとって最善の解決を目指すわけですが、営業譲渡や不動産取引の現場とともに、労使交渉や従業員や社長さんとのちょっとしたやりとりが蘇ります。 どんなに小さい事件でも担当させていただいた案件は、それぞれ印象に残っています。
弁護士のお仕事の中で嬉しかった事を教えて下さい。
事件の大小に関係なく、依頼者の方が安心した表情をされる等、お役に立てたと実感できた時です。相談に来られた方が最初は顔が青ざめていても、話をしていくうちにホッとした表情になられると、良かったと思います。
弁護士のお仕事をする上での信条・ポリシーがございましたら教えて下さい。
弁護士の仕事は人助けが基本であると思いますので、困っている人の役に立つこと、それを忘れないようにしています。そして、弁護士の仕事は正義にかなうものでなければならないと思っています。
先生の今後のビジョンを教えて頂けますでしょうか。
弁護士の仕事はご依頼あってのものなので、それがなければ何も始まりません。したがって、ご依頼を受けられるように日々研鑽を積むことが大切であると思いますし、今後もそれを継続していきたいと思います。また、通商関係については、市場を魅力的にしていくことを目標に携わっていきたいと思っています。日本だけでなく、世界の市場が健全になっていけば、市場に参入したいと思う方も増えます。誰にでも参入の機会があれば、たとえ現在は報われない状況にある方であっても、将来に夢を持つことができます。
多彩な国際経験をお持ちの先生にお伺いしたいのですが、英語の勉強のコツは何でしょうか。
それは、私の方が教えていただきたいくらいです。無理せず、ただどこかで何かしらの恥を厭わずに言葉を自分のものにすることでしょうか。そして、その言語の文化を生きる覚悟とお互いを理解し合おうとする熱意かなと思います。言語の習得の過程では恥ずかしい思いをすることもたくさんあると思います。日本人がなかなか海外に出ていかない、あるいは行っても戻ってくることが多い実情がありますが、それには、外国語で上手に自分の伝えたいことを伝えられないため、プライドがもたないということも関係しているようです。私も道半ばです。