榊原 富士子 弁護士 インタビュー
弁護士を目指した理由
プラス面の理由とマイナス面の理由の両方があります。
まず、マイナス面の理由は、当時の社会情勢に関係しています。私はオイルショックの直後に国立大学法学部に入ったのですが、当時の男子学生の就職先は選り取りみどり、選び放題だったんですね。ところが女子学生の求人はゼロ。均等法もなく「男性のみ」募集が合法だった時代ですから。
だから、女性が法学の勉強を生かすには、教師か、公務員か、何らかの資格を取るしか働く道が思いつきませんでした。その中では一番自由に仕事のできる弁護士の道が良いと思いました。
また、昭和40年代の後半の私が高校生の頃は、高度経済成長の末期で、水俣や四日市など公害が問題になっていた時期です。小さい頃から、本を読むのが大好きで、その延長で新聞もすみずみまで読むのがとても面白くなり、高校生の頃には公害訴訟で原告が次々に勝っていく様子や、家族の紛争に解決に弁護士がかかわれることを知りました。それで弁護士という仕事にひかれ、法学部に入りました。これはプラス面の理由ですね。
印象に残っている事例
いくつか挙げますと、まずは婚外子の裁判ですね。民法900条4号但書の、非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1という規定の違憲性をいつくかの裁判で争いました。1993年には東京高裁で初めて違憲決定をいただきました。
もう1つが、婚外子の住民票や戸籍での記載方法に関する裁判です。95年までは婚外子は婚内子と違う方法で住民票の続柄記載がなされていました。すると住民票を見ると、「この人は婚外子だ」ということがわかってしまうわけです。個人情報保護法もなく、誰でもさしたる理由なく自由に住民票を閲覧できる時代でした。それを差別のない記載方法に改めて欲しいと請求する行政訴訟・国賠訴訟です。住民票については東京高裁で違憲判断、戸籍については東京地裁でプライバシー権侵害との判決をいただき、記載方法を変えることができました。
もう1つは、婚姻後も生来の姓を使いたい、つまり夫婦別姓でいたいということで、大学教授の女性が、自分の勤務先を被告として、通称使用を認めてほしいという作為的差止を求めた訴訟です。高裁で将来志向型の和解ができ、国家公務員を初めとする旧姓使用の道を開きました。
これらの事件は大変時間もかかり苦労しましたが、結果も出て、また原告や支援の方たちとの交流がとても楽しかったので印象に残っています。
仕事で嬉しかったこと
弁護士という仕事は解決すると喜んでもらえます。裁判官と違うのは、判決をもらって解決した後も依頼者と交流することができます。それが嬉しいです。1つ1つの案件を解決していって、幸せになるお手伝いを少しできることに喜びを感じます。
会えなかった親子が10年ぶりに会えるようになった時は、本当に嬉しかったです。弁護士にはこのように人と人を“つなぐ”仕事もたくさんあります。
大変だと感じること
たくさんありますよ。例えば離婚事件の中で。日本の離婚制度は完全な破綻主義ではなく、まだ有責主義を残しています。自分の側に破綻についての主たる責任があると離婚の請求はなかなか認められない。このため、自分ではなく相手が悪いんだ、ということを、10年、時には20年前の事実に遡って延々主張しあわなければならないような場合もあり、書面を作成していてもむなしい気持ちになります。
子供が亡くなったとか、植物状態になったなど被害が重大な事件は、とても重い仕事ですね。だから弁護士には、重い事件を扱う時にも、自分も一緒になって気持ちが沈んでしまわないような、明るさとかパワーが必要ですね。
弁護士としての信条
ものごとのプラス面を見るということですね。「感謝する、褒める」ということをとても大事にしています。自宅の冷蔵庫に「座右の銘」のような感じで貼ってあります(笑)。貼ってあるということは、毎日、なかなかそれができていないということです。
例えば依頼者が自信喪失したり展望を失っているときに、依頼者の持参された書面を見て「字がきれいですね」と言ったり、パソコンが得意な方だったら、「とても助かります」と感謝したりするようなとてもささやかな事も含めてです。それを続けていると物事がいい方向に回っていきます。
依頼者に対して心がけていること
依頼者の気持ちにしっかり寄り添うということです。若い弁護士や学生さんの方が、感情が素直で相談者の気持ちに寄り添いやすく、横でみていて勉強になることがあります。
経験を重ねてくると先の展開が見えてきてしまい、裁判官的になってしまって、「そうは言っても無理だよね」という感じになりがちです。そうならないように気をつけたいと思っています。あとは守秘義務をしっかり守ることです。
特に関心のある分野
一番関心のあるのは、親族・相続などの家事事件ですね。夫婦や親子の関係から生ずる紛争です。
悩みを抱える方へのメッセージ
何か困ったことがあれば気軽に相談に来てください。実はみなさんが思っているほど弁護士費用は高くないですから。