寒河江 孝允 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
私は元々自然科学に興味があったんです。エジソンやライト兄弟の伝記が好きでよく読んでいましたし、私の親戚には、お米の新種を開発したり、農機具の発明をしたりとアイデアマンが多かったんですね。また、中学の頃の理科の先生がとても面白くて、そこで自然現象に興味を持つコツを教えられました。
それで一時は発明家に憧れていたんですが、そのうち自然科学だけでは物足りなくなって、社会科学にも興味が湧いてきたんです。社会をよりよく改革するために、政治、経済、法律を学んでみたいと思ったんですね。それで東大の法学部に入学しました。
しかし、学生時代にも弁護士になろうという強烈な思いがあったわけではないんです。進路として考えられるのが、官僚になるか法曹になるかといったところでしたので、司法試験を受けてみたというのが正直なところですね。
ただ、組織に入って自分の意思を抑制されて仕事をするのは嫌だな、という思いはなんとなくあったので、結果として弁護士という自由業を選んだことは間違ってなかったと思いますし、弁護士として、みんなが暮らしやすい世の中を作り出すことも一種の『発明』ですから、発明で世の中の役に立ちたいという気持ちは中学の頃から変わらないですね。
知的財産の事案を扱うために、技術の予備知識は必要か
特許を扱う仕事をする上で、最初から技術の知識を持っている必要はありません。私だって法学部という文系卒の人間ですから。
弁護士の仕事というのは、科学者や技術者の説明を受けて、それを理解し、法的に組み立て主張することです。例えて言うならば、発明者や技術者の説明を材料として、弁護士はそれをうまく料理することが求められるのです。それを裁判長が「おいしい」と言ってくれたらこっちの勝ちだし、「まずい」と言われたら負けなわけです。
ですので、特許を扱う弁護士は、科学技術の前提知識を持つ必要は無いのですが、科学技術の説明を理解する力、科学技術に対する興味関心は絶対に必要です。
私の場合は、たまたま文系を選んだけれども、元々理系の勉強が大好きでしたので、この仕事ができるんですね。文系の人間で技術の前提知識はなくとも、科学が好きであれば絶対にできる仕事です。
あとは、説得力のある主張できるようになるためにはある程度の経験は必要です。これはどの分野の仕事にも言えることですが。
仕事状況
知財系の仕事が6割で、それ以外の仕事が4割といったところです。知財以外の仕事もしているんですよ。知財系の仕事としては、特許、商標、著作権がそれぞれ同じぐらいの割合です。ライセンス業務も多いです。知的財産に関する本もこれまでたくさん書いてきました。 日経文庫から出ている『知的財産権の知識』がよく知られています。
あと、私は実は地元である山形の国選に3回出ているんですよ。自民党の細田元官房長官と東大の同期でして、応援にかけつけてくれました。当時は小泉さんが知財立国を標榜していたので、山形を元気にしたいという思いとともに、知財立国に貢献したいと、政治の世界にも興味を持ちました。残念ながら、この情熱は山形まで届きませんでしたが。知財はなかなか票にならないんですね(笑)。
ライセンス業務について
私は弁護士の仕事をかれこれ40年やっているわけですが、ライセンスの内容は昔と現在では随分変わっています。以前は、主に欧米から技術を導入するというライセンス契約が主でした。欧米の企業がライセンサー、日本の企業がライセンシーという立場ですね。
それがここ10年ぐらいは、アジアの国々に対して、日本の企業がライセンサーとして、ライセンスを供与するという仕事が圧倒的に多くなっています。中国、韓国、台湾、特に中国の案件が非常に多いです。
弁護士として産業界に貢献するために求められる能力
能力というよりは、情熱ですね。能力はもう十分あると思いますから、あとは日本が世界で生き残り、貢献していくためには、知的財産というものが非常に重要なのだということを、本当に理解し、情熱を持って取りくむ人材が求められます。
現状では、知的財産の重要性を真に理解している人材がまだまだ少ないです。1つ卑近な例を挙げると、仕分け作業のときに蓮舫さんが発した「2位じゃダメなんですか」という発言ですね。日本における知的財産の重要性が分かっていないから、ああいった発言が出てくるのです。
その他特記事項
これから日本が世界の中で活躍して生き残っていくためにも、知的財産というものが政治、社会の基本的な考え方であるということを、法律家を目指す人やトップリーダーに認識をもってもらいたいですね。そうすれば、日本はハッピーだし、世界もハッピーになれると思います。