伊東 卓 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
私の父は弁護士をしていました。父は、私が小学校1年生のとき、40歳で司法試験に合格しました。その後、父の同期の弁護士の方々に大変可愛がっていただき、また、その中に素晴らしい方がたくさんいらっしゃったので、このことが弁護士を目指す大きなきっかけになりました。父の仕事も傍で見ましたので、自然と弁護士の道を選びました。
印象に残っている案件(事件)
弁護士になってまだ日が浅いころに扱った事件の印象が今でも強いです。私が弁護士登録したのは昭和63年ですが、当時はバブルの絶頂期で、不動産をめぐるバブル期特有の事件が多かったですね。
中でも、地上げが行われていた土地に勝手に建物を建てられてしまったという建物収去土地明渡しの事件が印象に残っています。相手は暴力団でしたが、仮処分、訴訟、強制執行と最後までやり切りました。訴訟の帰り道で待ち伏せされたり、電話で脅しに遭うこともあり、まるでドラマのようでした。
相手が金銭目当てだということは分かっていましたが、現実に体験することによって、暴力団がどういう手段を使うのかということがよくわかりました。
仕事の中で嬉しかったこと
やはり、依頼者に感謝してもらった時です。弁護士といえども仕事ですから、報酬の話がついて回るので、本当に感謝されているのかどうか純粋には確かめにくい面もあります。そんな中、本当に感謝されることに出会うと嬉しいです。
かなり前の国選事件ですが、東京に出稼ぎに来た夫が刑事事件を起こして逮捕されたという事件で、接見を重ねて方針を決め、妻に連絡をして被害弁償をし、執行猶予判決をもらったところ、夫婦で泣いて喜んでくれたということがありました。その後20年経っても、欠かさず年賀状を送ってくれます。こういうことは本当に嬉しいですね。
弁護士になって大変だと感じること
当たり前のことですが、弁護士ができることは法律の範囲内に限られます。法律上考えられる方法の中から最適の方法を選択するために最大限の努力をし、全神経を張り詰めて仕事をするのですが、それでも依頼者の求めるところと実際に達成できることと間にギャップがあると感じることがあります。そこを依頼者に理解していただくことが大変だと思うことが多いです。
弁護士になって5年目くらいまでは、そのようなことはあまり意識することはなく、何でもできる気がしていました。しかし、徐々に弁護士としてなし得ることの限界が見えてくると、依頼者が期待しているところとの差というものを痛感します。
休日の過ごし方
ここ数年はあまりやっていないのですが、以前はよく野球をしていました。高校時代は野球部に所属していたので、弁護士になってからも野球を続けていました。各地の弁護士会にも野球部があって、毎年全国大会を開催しています。東京チームの監督もやりました。草野球ですが、ホンキの勝負は楽しかったですよ。
弁護士としての信条・ポリシー
依頼者の側に寄り添い、依頼者のことを考えることです。どうしてあげたら依頼者にとって最適なのか、どうすれば依頼者の思いが実現できるのか、ということを考えることに力を尽くします。ただ、これは弁護士としては当然のことです。弁護士会の会務を通じてたくさんの弁護士に接しましたが、その中には、本当に一生懸命に依頼者に尽くしている弁護士がいました。先輩後輩関係なく、こういう弁護士を私は尊敬します。
依頼者に対して気をつけていること
やはり依頼者のことを第一に考えることです。弁護士も自営業者ですし、事務所の運営のためには収益ということも考えなければなりません。しかし、それでも、第一に考えるべきことは、自分に依頼してくれた方が何を望み、どう考えていて、それをどう実現するかということです。
たくさんの事件を引き受ければそれだけ収益が上がるかもしれませんが、仕事の質が落ちて依頼者に迷惑をかけるのであれば、それはすべきではありません。優先順位を間違えてはいけない。そうではなくて、依頼者に対して誠実でいること。それが職業倫理であり、信頼を維持するための第一歩だと考えています。
関心のある分野
一つは、民事介入暴力です。実際に担当した事件で苦労したこともあり、弁護士会の委員会に入っていろいろな事件処理のノウハウを学びました。もう一つは、スポーツ法の分野です。これは新しい分野です。スポーツで辛い思いをさせられている人たちがいます。そういう人たちが明るい気持ちでスポーツに取り組めるよう手助けをしたいと思っています。プロ選手ばかりが対象ではないので、必ずしも業務分野につながるわけではありません。でも、スポーツ界特有の上下関係なども含めて、良くないところは直して、たくさんの人にスポーツを楽しんでほしいと願っています。
今後の弁護士業界の動向
私が20年以上してきた仕事の大半は、裁判所での訴訟です。しかし、今後、弁護士の数が増えますが、訴訟の数がこれに比例して増えることはないでしょう。一方で、様々な場面で法律専門家の力が必要になります。若い弁護士がそういう領域で活躍していくのではないでしょうか。
例えば、スポーツ団体がきちんと運営されていくようにサポートをするなどです。また、企業内や自治体レベルでも組織の中に弁護士がいることが必要となってくるでしょう。今までの弁護士の報酬体系は維持できないでしょうが、それよりも、社会は、弁護士が市民生活の隅々まで浸透していくことを望んでいるのだと思います。浸透にはまだ時間がかかると思いますが、若い弁護士が地域や市民社会に飛び込んで、そこに密着していくことが求められているように思います。
今後のビジョン
弁護士の数が増えただけではいけません。弁護士はもっと社会に進出していくべきだし、そのためには、中小企業や地域住民や自治体の方々に、弁護士が実際にどう役に立つのかを見ていただかなければならないでしょう。そして、社会に進出していこうとする若い人たちを、弁護士会やロースクールなどが一緒にサポートしていかなくてはならないと思います。まずは、こういったことを理解してくれる仲間を市民の皆さんの中から増やしていくことからでしょうね。
ページを見ている方へのメッセージ
自分を含めて、若い人もベテランも、弁護士は、もっと市民の皆さんや日本経済を支えている企業や、あるいは海外で働く人たちなどの味方になりたいと思っています。多くの弁護士が奉仕の気持ちを持っています。社会の役に立ちたいと思っている人たちがいるのだ、ということをご理解いただければと思います。